第03話 『人のココロ』



ホークザイル。
ホーブルグ要塞。

ブラックホークとやらのこともなんとなく皆に教えてもらって理解できた。

まぁ、ブラックホール?ってボケかましたときにはムチが跳んできたけど。

アヤナミ参謀
ヒュウガ少佐
クロユリ中佐
カツラギ大佐
コナツ君がヒュウガのベグライターという補佐で、
ハルセさんがクロユリ君のベグライター。

この人たちがブラックホーク…。
えっと、参謀部直属部隊だったっけ??


なんか覚えることありすぎて、てんてこ舞い。

でもとりあえず行くあてもない私を、軍に置いてくれることに。
どうやったら帰れるのかも分からない私にとって、それだけで十分救いだった。




***




働かざるもの食うべからず。
ということで、私に宛がわれた仕事はブラックホークの皆様の細々とした書類整理。
まぁ、ぶっちゃけていえば雑用だ。
仕事始めて2日目。
ここに来て3日目。
なんだかんだいって、結構楽しい。


「アヤナミさん、この書類は…」

「ミロク元帥に届けろ。」

「了解。」


一番人遣いが荒いのはアヤナミさん。
まぁ。仕事の量も半端なくあるからべつにこれくらいしてもいいんだけどね。


「あ、名前!これもついでにお願いできる?」

「もちろん!」


クロユリ君から書類を受け取り「いってきます。」と執務室を出た。



「頑張ってますね、名前さん。」


ハルセがクロユリに話しかければ、クロユリはうん。と頷いて見せた。


「教えたことは二度と聞いてこない。捌けてるよねぇ。」

「はい。」

「昨日なんて艦内一回案内しただけで覚えてたんだよ。」

「私たちが朝来る前に先に来て机もキレイになっていますし、」

「え?ハルセそれホント?この前僕、夜に皆が仕事終わってから掃除してるの見たよ?」

「…一日の汚れはその日の内に。一日の始まりは気持ちよく仕事できるように。と、確か言ってましたよ。」


コナツは名前が用意して行ってくれた紅茶を飲みながら、ハルセとクロユリの会話に入った。

ゴミ箱がいっぱいになる前に必ずゴミは捨ててあるし、窓際には小さな植木鉢。
毎日欠かさず水を遣り、昼間はお日様がたっぷり当たるところにおいてある。


「女性らしい気遣いですね。」

「はい。………名前さんくらいマジメに少佐も仕事してくれたら…」


コナツの悲痛な叫びがポツリと執務室に響く。


「そういえば少佐と大佐、見ませんね。」

「大佐はわかりませんが、少佐は多分またどこかしらブラブラと歩いてるんだと思います。」


「たっだいまかえりました!!ついでにヒュウガも連れてかえったよ!!」


入り口から明るい声がしたと思ったら、名前がヒュウガの腕を引っ張りながら入ってくるのが見えた。


「名前さん!!ありがとうございます!」


涙で前が見えないとばかりに嬉しがるコナツ。
そんなに追いつめられていたなんて…


「さ、ヒュウガ少佐。お仕事してください。」


パッと腕を離せば、えー!と口と尖らせる。


「ちぇっ。俺の腕にあだ名たんの胸があたってて幸せだったのに。」

「へーんーたーいーー!!大人しくついてくるなぁと思ってたらそんな理由?!」

「だって、あだ名たんがそんな薄着でいるからだよー。」


私のせいか??
そりゃ確かに…キャミに短パンは露出激しいかな。とはおもうけど…
もしかして知らないうちに私露出狂?!
犯罪者?!

でもこれしか服ないし!!
え?洗濯してるのかって?

大丈夫!
夜洗って干して、朝には渇いてるから!


「だって制服まだ用意できてないみたいだし。仕方ないじゃん。」

「えー?制服用意してるの?そのままでいいよぉー。俺背ぇ高いからあだ名たん見下ろすと胸の谷間とか見えちゃうんだよね。」

「最低―!!コナツぅ〜ヒュウガがセクハラするー!!」


コナツに前から抱きついて泣きまねをすると、ヒュウガが「あだ名たん、それはセクハラにならないのー?」と言葉を投げかけてきた。


「え?!」


急いでコナツから離れる。


マジで?
セクハラ??


「逆セクハラしちゃった??」


私、痴女??


「い、いえ…セクハラとは思ってないので大丈夫…ですけど…」


少し顔を赤くするコナツがあんまりにも可愛くてもう一度抱きしめてしまった。


「コナツかっわいー!!照れてるー」

「もう!からかわないでください!!」


かっわいいなーコナツ。とニマニマしていると、横からクロユリに服の裾を引っ張られた。


「何?」

「僕もギュってして?」


やっほい!!
見上げられながらそのセリフは鼻血もんだぜ☆


「おうよ!言われなくても抱きしめちゃうもんね!!」


やべぇー超かわいーー!!
お持ちかえりぃ!!


「俺も俺も!!」

「下心みえみえの人は却下!」


一通りクロユリを抱きしめ終えると、紫の瞳の方と目が合った。

え?もしかしてうるさかった?
仕事しろって??

あ、ソレとも・・・


「アヤナミさんもギュってしてほしいんですか?」


バシッ!!


「うぎゃ!冗談ですよ冗談!あ、もうお昼だ!!とりあえず逃げ…じゃなかった、お昼食べに食堂行きましょ!!GOGO!!」


無理やり皆を外へ追いやり、名前はくるりとアヤナミを見た。


「アヤナミさんも行きません?」

「…」


返事は帰ってくることなく、私は諦めて扉を閉めた。




***




両手に二つのオムライスを持ち、名前、ただいま執務室前。


「アーヤーナーミーさーん。あーけーぇーて。」


執務室にいることはわかっているのに、返事もなければ動く気配さえない。
重くてぷるぷると震える両手を叱咤して、私は思い切り


「開けーゴマ!!」


右足で扉を蹴り開けた。


「あぁ!やっぱり!!」


後から追ってきたコナツ達は蹴り破られた扉にため息をついた(ヒュウガとクロユリ以外)。


「両手塞がってるのにどうやって開けるのかと思って急いで来て見れば…」

「遅かったね♪」

「女性なんですからもう少し…」

「あだ名たんらしい☆」

「でしょ☆」

「…はぁ。」


私とヒュウガの会話の中に、コナツのため息が聞こえてきたことはこの際スルーということで。


「名前…」


地を這うような冷たい声。


「なんでしょうアヤナミさん!」

「出てけ。」


いやん。


「まぁまぁ、そんな連れないこと言わずに。お昼もってきましたよー。調理場さん特製オムライス。」


コトリとアヤナミさんの目の前に置けばすごく不機嫌そうなオーラが漂ってきた。


「仕事もいいけど、3食きちんととりましょう。でもいくら3食とっても、一人で食べるのは寂しいから…皆で食べましょう!」


それまで机を埋めていた書類はわからなくならないように床に置いて、それぞれが持ってきた料理をアヤナミさんの机に置いていけば、広い机もあっという間に埋まってしまった。


「誰の提案だ。」

「私!5人よりも6人!一人でも多いほうが楽しいです。カツラギ大佐がいないのは残念だけど…また明日でもいいしね。」


明日もこうやって食べるの?とコナツから視線を感じる。


「出来る限り…こうやって食べましょ!久々だなぁこうやってみんなで食べるの。」


ヒュウガとハルセが持ってきてくれたイスに座り、手のひらを合わせる。


「ほら、皆もちゃんと手を合わせて!!」


アヤナミさんを除く皆は渋々手を合わせる。


「アヤナミさんも!」

「…」

「アヤナミさんもしてくれないと皆食べれません!いつまでも待ちますよ!!」


言葉通り、いつまでも待つであろうことを察したアヤナミは、不機嫌オーラを倍増させながら手をあわせた。


「ぶっ!…ぐはっ!!」


ヒュウガが笑えばすぐさまムチが撓った。
別にヒュウガなら痛めつけてもいいけど、机に乗っている料理はこぼさないでくださいね。


「さて、ヒュウガのお仕置きも終わったみたいだし。調理場さんや食材に感謝して、いただきます。」

「「いただきます…。」」

「オムライス久しぶり〜。」

「アヤたんがオムライス食べてるなんて…笑える。」


バシンッ!!


あーあ、ヒュウガもお仕置きされるって分かってて言ってるからタチが悪い。


「ところで。」


久しく口を開いたアヤナミさん。

なんですか?
と問い返せば、


「なぜ皆同じ料理だ。」


まぁ、確かにメニューはいっぱいあった。
でもね。


「え…だって…オムライスだよ?!淡白で素朴な味だけどちゃんと僕はここにいるよ、と主張している鶏肉。まるでルビーのように輝くケチャップが真っ白なご飯を『貴方色に染めて』的な感じで染め、黄金の卵がふんわりとその上に乗り包丁で真ん中を切ればトロリとライスを包む!これはもう身も心も眩しく、ルビーの心を黄金のドレスで身にまとうヲトメ…じゃなかった…乙女のよう!!」


これを食べなくて何を食べる??


「……という具合に乗せられまして…」


コナツがあさっての方向を見ながら言えば、ヒュウガは「じゃぁ俺今乙女食べてるってことだよね。」とオムライスをスプーンでつついた。


「ちょっとヒュウガ!か弱き乙女に何してんのよ!」

「黄金のドレスを捲れば…裸かな。」

「NOぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」


乙女が…
乙女がこのグラサンに辱めを受けている…
これほどの屈辱があっていいものか?!


「お2人とも、食事中はお静かに。」


私たちの会話を止めたかったのか、ハルセが静かに正した。


「はぁーい!」

「あだ名たんっていい子だねぇ。」

「へ?そうでもないよ。嫌いな人間はとことん嫌いになるし、結構腹黒いとこもあると思うし…。私からしたらみんなのほうがいい人だよ。優しい…というか…温かい。」


私を遺産目当てで引き取ろうとしたあの人たちとは比べ物にならないくらい…
ココロが…温かい。


「なんだかんだいって、アヤナミさんは結局一緒に食べてくれて優しいし、ハルセさんはすごく私に気遣ってくれる。コナツは一緒にいて萌え…じゃなくて、楽しいし、クロユリは側にいてくれるだけで癒しになるもん。だからみんな好き。」


久々に人の温かいココロを身近に感じれた気がする。


「褒められて…悪い気はしないものですね、クロユリ様。」

「うん♪」

「…え、あの…俺は??」


あぁ…忘れてたよヒュウガ。


「…そうね〜……ノリツッコミが素敵☆」

「…褒められてる気がしないんだけど……」

「まぁまぁいいじゃないのそれで。人の個性はそれぞれよ。」


話も一段落したし、私は大人しくオムライスを食べようと一口含んだ。

瞬間。
プチッと口の中でご飯ではない何かを租借した。


「ん゛!!」


口元を押さえて急いで水と一緒に飲み込む。


「何?あだ名たん、毒??」

「い、いえ……天敵が私の中に入ってきて……」


ちょいちょいとオムライスの中から彼らを上手に取り除き、横に追いやる。
それを横目で見ていたアヤナミは「…グリンピースか。」と小さく呟いた。

そうだよ!
グリンピースだよ!!

くそう!
卵のドレスに気を取られていたぜ。

たまにあるんだよね…乙女の中に異物がはいってるのが(あ、なんかヤラシい…)

性格の悪いオムライスだこと!
私が好きなのはグリンピースの入っていない性格のいいオムライス。
グリンピースが入ってる乙女は性格が悪そうだから嫌い。
ていうか、グリンピースが嫌い。


「あだ名たん嫌いなの?」

「嫌い。プチッとした感じがムリ。」

「栄養ありますよ?」

「わかってるけれども!無理っす!」


なおも彼らを除け続ける私の動きを止めたのはアヤナミさんの一言だった。

――――――食え。



くすん。
アヤナミさん、ムチを手に持つのはヤメテください。

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