01 背中にちゅ



「カツラギさーん!こんにちは!!」


ここは帝国軍ブラックホークの執務室。
そんな物騒且つ極まりないところに私は毎日のように通っている。
目的はもちろん、


「はい、こんにちは。今日はいつもよりお早いですね。」


いつも優しく微笑んでくれるカツラギさんに会うため、ただそれだけである。


「そうなんです!珍しくホームルームが早く終わって。」


一分でも一秒でも早くカツラギさんに会いたかったです!とカツラギさんに抱きつくと、それはありがとうございます。と彼は微笑んでくれた。
癒される。


「あだ名たん、今日も潜り込んできたの?元気だねぇ〜若いねぇ〜♪」


しみじみと頷くヒュウガに、私は笑った。
まるでおっさんのようだ。


「そりゃぁ若いに決まっているでしょ。まだまだぴちぴちなんだから。」


まだ十代で子どもと言われても仕方がない年齢だけど、これでもれっきとしたカツラギさんの恋人なのです。
年齢差とか気にしません!!
気にしたら負け。そんな勝ち気なお年頃です。


「いつもどこから潜り込んできてるのかはわかんないけど、ネズミみたいだね☆」

「もっといい例えして欲しいなぁ…。」


ネズミはちょっとイヤ…と、うな垂れていると、執務室に入ってきたアヤナミさんとバッチリ目が合った。


「……また来たのか。」

「えへ。」

「つまみだせ。」

「またまた〜ご冗談を、アヤナミさん。もう慣れたでしょう??」

「そうだな、そのヘラヘラとした顔を見飽きるくらいには。」


あぁ、今日も相変わらずの毒舌っぷりです。
でもこうして冗談めかして話してくれて、それに皆が笑っているくらい私はここに馴染んできたようだ。
それもこれも、あの日があったおかげだ。


私は少し前まで所謂不良少女だった。
深夜街を徘徊して学校にも行かず、嗜好品も嗜んでいた。
そんなどうしようもない私を親も見離した、そんな時だ。

軍服を着た彼が、朝方家に一人で帰っていた私の吸っていた煙草を取り上げたのだ。
なんだかその日は気分が良くて、久しぶりに家に帰ろうとしていたのに、そのいきなりな行動に気分は一気に地を這った。


『私の煙草返してよ。』

『未成年の煙草は法律で禁止されていますよ。』

『じゃぁ人のもの勝手に盗るのは犯罪じゃないわけ?』


ムッとして反抗すると、彼は私の腕を掴んで自分の方へと引っ張った。
そのせいで彼の胸板におでこをぶつけ、急に何をするんだと怒鳴ってやろうと口を開いた途端、先程まで居た私の場所を素早いスピードでホークザイルが通り過ぎたことに私は目を丸くする。
もしあのままそこにいたら私はホークザイルに轢かれていたことだろう。


『危ないですよ。』


ふんわりと優しく微笑んだ彼に、私は小さく頬を染めた。


『…わ、私、煙草やめる。』

『それは良い考えですね。』

『お酒も深夜徘徊もやめる!!不良もやめる!学校も真面目に行くから!だから私と付き合って!』


意外と不良はロマンチストなのだ。



ソファに座って、ほんの数ヶ月前の出来事を思い出していると、カツラギさんが「何を笑っているんですか?」と問いながらアイスコーヒーを差し出してくれた。


「内緒です。」


先程の回想と今と、性格が180度違うが気にしないでもらいたい。
人間は恋をしたら変わってしまう生き物なのだ。

冷たいアイスコーヒーを飲むと、それは私好みの甘さだった。
アヤナミさんが飲んだら甘すぎるって怒るくらいには甘い。
カツラギさんはそんな私の好みをわかってくれているのだと思うと、ついつい頬が緩んでしまいそうになる。


「そういえばどうしてあの時、私の告白をあっさりとOKしてくれたんですか??」


そうなのだ。
カツラギさんは名前も知らないであろう私の突発的な告白を、「いいですよ」と迷いもせず頷いてくれた。


「内緒です。」


先程の私と同じセリフを返したカツラギさん。
私は教えてください教えてください教えてくださいー、と椅子に座っているカツラギさんの背後に回って後ろから抱きついた。

腕をカツラギさんの肩に乗せて駄々を捏ねているその姿は、ただのおこちゃまのようだ。
実際、ヒュウガが面白そうにこちらを見ている。


「仕方ありませんね。…そうですね、前から気になっていたんです。周りの不良の方に交じって居る優しい笑顔の女の子を。」

「優しい笑顔だなんて!!」


嬉しくって、ギュウッと抱きしめる腕に力を入れた。
こういうとき、ものすごくキスをしたくなる。
でもカツラギさんは今まで私にキスをしたことはない。
キスしたいとも言いづらく…、乙女だなぁ私、だなんて内心笑って、小さくカツラギさんの背中にキスをした。


「どうかしましたか?」

「ううん!背中に埃ついてたから取っただけー。」

「ありがとうございます、では今日もお勉強しましょうか。」


カツラギさんはいつも私の宿題を見てくれる。
あまり勉強が好きではない私としては複雑だけど、カツラギさんが教えてくれるからそれもイヤではない。

だけど私は子ども染みているから、


「えー、もっとお話ししてたいです。」


と駄々を捏ねる。


「宿題が終わったらいくらでもしましょう。それに頑張ったら今日のおやつはあんみつがありますよ。」

「頑張ります!!」


カツラギさんは私の心だけじゃなく、胃袋まで掴んでいるようだ。


私達の出会いは運命だと思うんです!


- 1 -

back next
index
ALICE+