むかしむかしの約束さ
「ってことでぇ、明日から漣音も此処に住むことになったから♪」
本田透さん、草摩の秘密を知る同級生が慊人の許可を得て(馬鹿猫も住むようにとも言われて)から三日も経たない内の出来事だった。
「あの、紫呉さん。漣音さんとは一体……?その方も草摩の……?」
「あぁ透くんは知らなかったね。ついでに夾くんも」
「うるせぇ!俺は知ってるっつーの!」
「全くもー、もの知らずな夾くんと知らなくて当たり前な透くんには説明しないとね!草摩 漣音はね、僕ら十二支達の間で"瑞兆"といわれる存在なんだ。これも草摩のトップシークレットに入るから詳しいことは言えないけど、いい子だから仲良くしてあげてね」
「で、その本人はどこにいるのさ?」
紫呉のことだからどこかに本人を待たせているのかと思ったら、どうやら今日は引越しの準備と慊人の世話で本家にいるらしく明日の昼間にこっちに来るらしい。
なので顔を合わせるのは明日、学校が終わってからになるようだ。
ーーー本田さんを巻き込んで三人で何か企んでなきゃいいけど。
じーっと紫呉の顔を見つめていると、当の本人は気まずげに視線を逸らした。
「明日お会い出来るのですね、楽しみです!」
透のそんな一言に、由希は小さく笑った。
翌日の昼頃。
由希達が学校へ行き、紫呉が居間でのんびり新聞を読みつつ透が用意した昼ごはんに舌づつみをうっていると、インターホンが鳴り響いた。
「お、来たのかな?……はいはーい!」
玄関の戸を開けるとそこに居たのは、今日から家に居候する漣音……ではなく、長い付き合いになる同じ十二支の秘密を抱える草摩 はとりだった。
「あれ?はとり。漣音は?」
「今、車にいる。荷物が予想以上に多くてな」
「あぁ、そういう」
「漣音本人はいらないと言ったんだが、女中もいない家に行って何かあったらどうするんだと騒ぐから仕方なく持ってきた」
「……そんなに多いの?」
「持ってくる予定だった荷物の倍以上だな」
「わぁお」
「はとり、とりあえず持てるやつだけ持ってきた」
車からようやく両手に荷物を抱えて来た漣音は紫呉に案内してもらい、空き部屋に荷物を置いた。
それに続くように、漣音には持てない重い物をはとりと紫呉が手伝い、運び終わると、今度は片付けを始める。
流石に紫呉とはとりに着替えなどを触らせるのも躊躇った漣音は衣類を、はとりは漣音が持ってきた暇つぶし用の本などを出し、紫呉は日用品の類を分担していった。
「おわったー!」
「漣音、こっちも終わったぞ」
「ありがとう、はとり」
「漣音ーっ、こっちも終わったよー」
「はいはい、紫呉もありがとうね」
「冷たいなー」
褒めて欲しそうに言いながら唇を尖らせて拗ねた紫呉の頭を漣音は撫でて笑った。
「ありがとう、紫呉」
「漣音のためだからねー」
正に犬のしっぽの幻が見えそうなほどキラキラした紫呉と呆れた表情のはとり。
「俺はもう帰るが、他に忘れ物はないな?」
「あ、うん。はとり、色々とありがとうね」
「気にするな。暇な時はいつでも連絡をよこせ、飯にでも連れてく」
「ふっふーん!透くんが用意してくれるだろうからはとりの出番はありませーん!」
「じゃあ漣音、また」
「気をつけてね」
「無視?ひどくない!?」
「買い物はこれでしろと慊人から預かった」
はとりは騒ぐ紫呉を完全に無視して漣音に一枚のクレジットカードを差し出した。
「全く、慊人も心配性ね」
「使わなかったらそれはそれでうるさいと思うが……まぁ、好きに使え」
「漣音まで無視?!この人たちホントひどい……!」
「それもそうね……わかった、慊人にお礼言っておいて。週末には顔出すから手が空いたら迎え来てもらえる?」
「あぁわかった。昼前には来るから準備しておけ」
「はーい」
今度こそ、玄関へと向かうはとりの後を着いていき、別れの挨拶を交わす。
紫呉に至っては廊下の隅っこで落ち込んでのの字を書いていた。
「ほら、紫呉。お家案内して?」
「都合のいいように扱うんだから!」
「しょうがないわ、紫呉だもの」
二人でじゃれ合いながら、紫呉は家のどこに何があるのか説明していった。
「それで、なんでまた突然うちに居候するなんて言い出したの?」
ひと段落したところで居間で休憩がてらテレビを見ていた時、玩具を見つけた子供のような顔で紫呉が漣音に質問した。
それに対し漣音は。
「別に。紫呉と慊人の会話聞いてて面白そうだったから」
「だからって慊人さんの反対押し切ってまでうちに来なくても」
あれから本家に行く度に慊人さんの視線が怖いのなんのって……と辟易とした様子で言った。
「慊人の世話に飽きたってのもあるけどね。口を開けば絆は不変だ永遠だって、あの母親にしてこの子ありって感じ。……まぁ、貴方はあの子のそういう所も好きなんでしょうけど」
「言うね。それはそうさ、いじめていじめて、いじめ抜きたくなるね」
「貴方に好かれて、あの子は可哀想ね」
心底愉快だと言わんばかりの笑顔を浮かべた漣音に、紫呉はやれやれと肩を竦めた。
「キミの方こそ、どうなんだい?」
「どうもしないわ。"私"が結ばれるなんて、有り得ないもの」
「……そうだったね。草摩の、十二支で一番呪われているのはキミだから」
「仕方ないわ。それが私の呪いだもの」
瑞兆は、何者も愛してはならない。
遠い昔の、"神様"との約束故に。