神様の半身





週末、漣音は、と言うとはとりに迎えに来てもらい、二人で外食していた。

本家は当たり前だが、紫呉の家でも透が作るのは和食が多いので普段はあまり食べない洋食が食べたくなり、はとりに無理を言って連れてきてもらったのだ。


「不便はないか?」


席につくなり、はとりは開口一番に聞いたのは漣音の生活環境のことだ。


「まぁ、まだ一週間も経ってないからアレだけど、これと言って不便はないわ。あの子が作るご飯も美味しいし、由希と夾も喧嘩してるからうるさいけど」

「そうか。ならいい」

「そっちはどうなの、慊人は」

「……相変わらず、と言うか、楝さんの方がな」

「ふふふ、あは、ははは!ほんっとに、親子はそっくりよね!慊人の子守りは御免だけどあの二人のやり取りだけは見てたいわー」

「他人事だと思っているが、楝さんはお前のことも引き合いに出してるんだぞ」

「へぇ?なんて?」


笑いを堪えているようで堪えきれていない漣音を呆れつつもはとりは一昨日の出来事を話し出した。






ーーー本家にて。


「うるさいっ!僕達は、絆は不変だ、お前なんかが口を出していいことじゃない!!」

「あら、それは本当にそうかしら。そういえば漣音ちゃんが本家を出たらしいわね。瑞兆にまで見放されて、そんな事で私との賭けに勝てるのかしら?」


冷たく見下ろす楝と睨む慊人。
二人の間に親子としての情はない。

怒鳴り声が聞こえて駆けつければ、鬼のような形相の慊人がいた。

言うだけ言って満足したのか、楝は慊人を一瞥すると踵を返してその場を去った。


「っう、……ひっく……」


子供のように泣く彼女を放っておけなかった。
あの頃から変わらない、小さな小さな、女の子。









「貴方と紅野は慊人には昔から甘いものね。紫呉の方がよっぽど健全だわ、やりすぎ感は否めないけど」

「あれは子供だ。それに楝さんは慊人を恨んでる」

「まぁいいわ、それを私達が議論したところであの子は変わることは無いし」


変化することを拒否しながら、その"不変"を試すなんて馬鹿らしい。

漣音は神様である慊人と同じ、十二支に囲まれるのではなく、上に立つ存在だった。

古から受け継がれる呪い。血の絆。
呪いに縋って楝と勝敗を競っている慊人も、慊人の言うことに一も二もなく従う草摩の女中も、前当主の晶に固執して自分が特別だったと思い込んでいる楝も。
漣音は嫌いだった。

十二支は、物の怪達は、この状態を望んでいたわけではない。
そこまで変えてしまったのは、物の怪憑きということに囚われ、絆に拘り続けた神様と物の怪憑きの者達だ。
それを漣音は知っている。
誰もが忘れてしまった過去の約束を、覚えているのだ。


「もっと自由に生きようと思えば、この世界は広いのにね」

「異質で、奇怪で、陰湿で、呪われているのにか?」

「子(ねずみ)だからと優遇され、猫だから卑下される。そんな世界が広いと思うなら、呪いが解けて外を知っても草摩でしか生きていけないわ」

「瑞兆であるお前と俺達では根本が違うだろう。俺達は物の怪、お前は瑞兆……慊人と同じだ」

「神様であることが生きやすいと思う?張本人が、あれほど歪んでいるのに」

「慊人の肩を持ったり貶したり、お前はどっちなんだ?」

「どっちでもないよ」

「……食べ終わったら本家に向かうぞ。慊人に暴れられたら敵わない」

「ん。安全運転よろしく」

「わかってる」


そこから本家まで、はとりと漣音の間に会話はなかった。

泊まり用の簡単な荷物をはとりに預けた漣音は真っ直ぐ慊人のいる部屋へと向かう。

哀れで歪な、神様。
絆に縋り、不変を盲信する愚かな神様。

父親の言葉を捻じ曲げて受け止めて、神様であることを強制された可哀想なヒト。


「……漣音」

「ただいま、慊人」


甘えたがりの子供のように漣音に抱きつき、離れようとしない小さな子供。

愛されたがりの"彼女"の頭へ手を伸ばして漣音は笑う。


ーーー可愛くて可哀想な、私の半身。
ーーー物の怪達から愛されても尚、手に入らない愛を求めて。




瑞兆は何ものにも囚われない。

瑞兆が瑞兆であるが故に。