その弍
”そいつ”はある日突然やってきた。
孤児院の捨て子の中でも周りに恐れられていた僕ににっこりと笑って話しかけてきた”そいつ”はあろうことか僕を『弟』と呼んだ。
僕と同じ髪色で、似たような瞳をして笑っていた。
「トム、初めまして。私の可愛い弟」
僕は自分が他人とは違うことを知っていた。
物を浮かせたり、触ることなく誰かを傷つけたり、それ以上のこともやろうと思えば出来た。
けれど『姉』と名乗った”そいつ”は僕以上に”特別”だった。
「何の用」
疑問符をつけずに答えた僕に”そいつ”は困ったような笑みを浮かべて僕の頭を撫でる。
”そいつ”は名乗ると、シスターに許可をもらい、僕を孤児院から連れ出した。
「ちょっと、どこに……」
「秘密の場所です、迷子にならないでくださいね?」
なるわけないだろう。
”そいつ”は僕の手を握ったまま、孤児院から15分程歩いた辺りの一軒家の前でぴたりと足を止めた。
今度は何だ、と見つめていると僕の方を振り返って言った。
「将来は、ここに住もうね」
「……は?」
「私は一足先に学校へ通うのでしばらく会えなくなりますが、トムはここへ自由に来ていいですよ」
「何を、」
「ここなら鬱陶しい子供も何も理解しようとしない愚かな人間も来れませんから。今のトムには天国でしょう?必要なものも用意しておいたので好きに過ごしていいですよ」
「ち、ちょっと待って。何を言ってるの。好きにって、どうやって家なんて」
「どうやって、って勿論、"お願い"しただけですよ?」
「そんな簡単に……」
その時ハッと我に返って”そいつ”の顔を見た。
自分と同じその瞳が、妖しく輝いてるのを見て思わず背筋がゾッとした。
自分と同じ"はず"の、血が繋がっている”そいつ”の姿が恐ろしく思えた。
「トム?」
「どうやって……お願い、したの」
絞り出すようにしてようやく言葉を吐き出すと、事も無げに”そいつ”は答える。
「手段ってそこまで大事ですか?結果がすべてでしょう?今、私とトムがいれる場所が此処にある、それだけでいいじゃないですか」
「……っ、」
「それに、手段がどういうものか、トムは気付いているでしょう?」
「そんな、こと……」
そんなことを言い出した”そいつ”の言葉に否定の言葉を返すと心底不思議そうな顔をしてから微笑んで、爆弾を落とした。
「魔法、使えますよね?」
「っ……!」
しまった、こんな分かりやすく動揺を表に出すなんて……!
「トム、私は貴方の血の繋がった姉弟。それなら私も魔法が使える。……当たり前のことでしょう?」
聖女にも思える笑顔を浮かべた”そいつ”は僕の両手を自分の手で包み込んでそう言った。
父に捨てられ、母は壊れた。
気が付けば孤児院にいて、自分は他人とは違うことを思い知らされた。
僕は選ばれた人間だ。だから特別な力あって、誰もが僕を恐れて近付かなくなった。
一人でいいと、思っていた。
「貴方は孤独じゃないの。これからは私がそばにいるわ」
あぁ、なんて甘い毒なんだろう。
この女は、この"姉"は。
「………………ねぇ、さん」
「トム、トム……私の弟、愛しい弟」
そっと僕の額にキスをするジルからは甘い香りが漂い、鼻をかすめた。
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