ソレは暗闇の中で目を覚ました。



暗闇の中でも問題なく動くことが出来るソレは此処へやって来た新たな主を迎えにその巨体を動かす。

新たな主との距離が縮めば縮むほど感じる、強大な魔力の気配。



――我が主が、ようやく、ようやく……!



歓喜に身を震わせる。



かつて仕えていた偉大なる主、サラザール・スリザリン。

最後の命令は『継承者に仕えよ』。

あれから幾度か継承者たる資格を持つ者と相対し、命令に従ったこともあったがソレが心の底から全てを捧げ仕えたいと思った継承者はなく。

最後に扉が開けられてから幾年過ぎたのかは知れぬが、ようやくこの時が来たのだ!



――主、主よ……、我が主――ッ!



自身を模った石造の列を抜けて現れた主はかつての主とよく似ていた。

身から溢るる強大な魔力も、微笑みを携えたその貌も、そして、自身を見つめるその瞳。





「”初めまして、毒蛇の王”」



――我が身の全てを貴女に。



自身と同じ空気の漏れるような音が紡ぐ美しい声音。

ソレは忠誠を誓うために巨体をずらし頭を垂れた。



「”ありがとう。貴方、名前はあるの?”」



――否。ただ石の目やバジリスクと。



「”そう。なら私から新たな名を与え、それをもって貴方は私の僕としましょう”」



――この身に余る光栄で御座いますれば。



「”そうねぇ……、『クアビペル』なんてどうかしら?”」



――このクアビペル、命尽きるまで貴女様に従います。



「”私の名前はジル・マールヴォロ・リドル。仮の名はシェリル・ウィンターソン。普段はこちらの姿で過ごすことが多いから覚えておいて”」



かつての主の継承者、ジル様は杖を振り、姿を変えた。

背は縮み、幾許か幼くなったようだった。



「”そして、クアベピル。貴方に下す最初の命令は、今年この部屋を開けてやってくる存在がいるわ。その人間に従いなさい。けれど人間を……生き物を殺すことは禁じます。貴方ならその目の効力を落とすことは可能よね?”」



――御心のままに。



恭しく頭を下げたソレ……否、クアベピルは黄色い瞳を細めた。



新たな主はクアベピルの冷たい皮膚をひと撫ですると「”また来るわ”」そう言って去っていく。

その後姿を見送ってからクアベピルはゆっくりとその巨体を動かしねぐらへと戻る。



かつての自分の主、サラザール・スリザリンがいた頃を思い出しながら。

新しい主、ジル・マールヴォロ・リドルとのこれからを思い浮かべて。



秘密の部屋の怪物、バジリスクは主がまた訪れるその日を懐かしい夢の中で待ち侘びていた。