邂逅1
幹部たちが揃った広間でいつものように会議が開かれた。
ことの話題は最近巷を騒がせている辻斬りだった。
「なんでも満月の夜に行われるらしい。まだ辛うじて死人は出ちゃいないが、時間の問題だろうな」
土方さん曰く、行われるのは満月の夜だけ。しかも見晴らしの良い場所で堂々と。
だが幸いにも死人は無く、怪我人程度で済んでいるということだった。
「それに、無視できねぇ情報がある」
「監察方が入手した情報によると、その辻斬りの犯人は白い髪に赤い瞳をした、大層美しい女性だそうで。しかも被害に遭った怪我人の中には我々同様に武を嗜んだ者もいた様でして、その方の言では相当な腕前だったとのこと。中途半端に力を持った手合いであればとっくに死人が出ていてもおかしくはないでしょうから信憑性は十分です」
山南さんからもたらされた情報の多さに困惑しながら一つずつ頭の中で噛み砕けば、驚きの連続だった。
「白い髪に赤い瞳……それって、」
「ああ、アイツラと同じだ」
「だが奴らが脱走してたら分かるし、何より死人が出てねぇってことは一番の違いだ」
「血を欲していても狂ってはいない、ということでしょうか」
「その上腕も立つ、と」
「しかも相当な美人さんだって?下手したら永倉さん辺りが見惚れて斬られちゃうんじゃない?」
「俺がそんなヘマするか!なぁ、平助!佐之!」
「「どうだかなぁ……」」
「普段の行いって大事ですよねぇ。」
「で、その話を出したってことは……」
「明日より夜の巡察を強化する。当番はいつもどおりで行くが、各自休養はしっかり取るように!」
近藤さんの号令で幹部全員が返事をする。
当然ちゃ当然だが、男だらけでむさっ苦しい。
「明日の夜の巡察は……、原田のところか」
「む。原田くんなら問題ないとは思うが、十分気をつけてくれ」
「原田、もしその例の女に遭遇したらなるべく生け捕りにしてくれ。変若水を飲んでるにしろ飲んでないにしろ、事件を起こしてるしな。話が聞きてぇ」
「あいよ」
土方さんの言葉に了承して、それぞれの部屋へと帰っていく。
廊下に出ると体がぶるちと寒さに震えた。京の冬が近づいているのを実感し、ふと月を見上げると。
夜空にぽっかりと空いた穴のような大きさの月に、これから起こる騒動の大きさを感じたような気がした。