邂逅2


あれからひと月が経った。
巡察する隊を増やし、それぞれが各方面へより力を入れられるよう になった。

けれどそんな俺たちを嘲笑うかのように満月の夜に行われる事件は起こった。

角屋帰りの男が近道をするために通った橋の上で斬りつけられた。
男は直ぐに近くの家に逃げ込んだおかげで大した怪我はなく、ピンピンしていた。
詳しく話を聞いた土方さんの話じゃ、どうやらその女は白髪ではなく金に近いらしい。瞳はやはり血のような赤だったとのことだ。

より一層警戒を強めた新選組は満月の前後三日の間は半数以上を動員して巡察へと出向いた。
そして、俺や新八、平助などの幹部は数十人の隊士を率いてそれぞれに割り当てられた巡察路をゆっくりと進む。

日付が変わるくらいとなると、月明かりだけで夜道に潜むものをみわけないといけないが、今日からはいつもより時間をかけられる。

「満月のおかげか、結構明るいですね」

「そうだな。こんな夜に男だらけで出歩くより綺麗な女と一緒に歩きてぇよなぁ」

「組長、またそんなこと言って……」

「お前もそう思うだろ?」

警戒を怠らずに周囲に目を遣りながら軽口を叩き夜の街を歩く。
隊士の一人が言ったように、今日は雲が少ないせいか月が明るく普通に歩く分には困らなかった。
だが例の事件の影響で夜に出歩くものは皆無で、違和感が募る。

不意に、甲高い悲鳴が響く。

「!あっちだ!まさか俺達が大当たりとはな」

「組長の悪運も馬鹿に出来ませんね!!」

「悪運だぁ?幸運の間違いだろうが!」

悲鳴のした方へ駆ける。
近づくにつれて、剣戟の音が大きくなっていく。

「誰かが交戦中、か?吉田、加藤、渡辺!お前らは医者を呼んでこい!」

「応ッ!」

隊列を離れていく三人は見送らずに、現場に向かう速度を更に上げる。

―――あの角を曲がれば……!


視界に飛び込んできたのは見晴らしのいい川沿いの橋の上、そこに佇む一人の女だった。

その女は新八と斎藤、二人が率いる隊に囲まれたながらも、大きな月を背に能面のような表情でこちらへ目を向けた。

白と見紛うほどの、艶やかな金の髪。
血のように赤く、美しい瞳。

一瞬、時が止まったような気さえした。


「―――…………て」

小さな声。
その一言を残して女はふらりと体を傾ける。その先は橋の下、川だ。

「こなくそっ!」

ばしゃん、と水を打つ音がして女が落ちたことを察する。

「お前らは怪我人の確認を!誰か、他の隊に知らせに行け!」

返事を待たずに川の中へ飛び込む。
肌を刺すような水の冷たさに襲われつつ、女を探す。

己のその行動が、犯人である女を見つけるだけではなかったと気付くのはまだ先のことだ。