屋敷の前で拾い物をした。
襤褸の刀を握り締め、血水にまみれた戦装束からは赤黒く乾いたそれが剥がれ落ちていく。
それでも薄く輝く白銀の髪。
戦に負けた落ち武者だろうが、どうしてこの屋敷の前に、わたしの前にいるのだろうか。
興味が湧いて、男の色の無い顔(かんばせ)を覗き込む。
光のない眼は何も写していない。

「…やす……ひ………さま」
「お前はなあに」
「………んべ、え………ま」
「壊れかけなの」
「……ぎょ…う………」

返事など、期待はしていなかった。
男が口にするのは意味のない言葉だ、意思を持たぬ声だ。
しかしこの男は、答えを必要としないそれを譫言のように繰り返している。
思わず薄い笑い声。

「ひとの子が来たいと願って、辿り着けるような場所ではないのよ、此処は」
「………」
「そうなるべくしてなったのならば………………成る程、きっとこれがわたしとお前の縁(えにし)」
「……きさま、は………」

先程よりはっきりとした声に意識を向けると、いつの間にか男の澄んだ月色がわたしを見ていた。
血涙の跡を残したその目は研ぎあげられた刃のように鋭く真っ直ぐわたしを射抜いていた。
−−瞬きをするほんの刹那の間に、その視線は再び下げられてしまったが。

「………………」
「…………ゆる、し……を…………きょ……か、を」
「……よろしい」

ならばわたしが、お前を赦そう。
立ち上がり差し伸べた手を前に、男は口を閉ざし、わたしを見上げていた。
眼の光は何時までも消えない。
無気力に無様に、地面に横たえていた身体を、ぎこちなく錆び付いた左腕で支え起こしていく。

「ひでよしさま」

音なく吐き出されたその名前が、呆然とした男の世界を支えていたのだろう。
これは今、わたしへの希望と己の信仰とを重ねている。
気分は良くない、しかしあまり悪くもない。

「わたしの前に現れた、理由なんて、それだけで充分」

そっと目を伏せる。
一瞬だけ、かつてのわたしを見たような気がした。

「ならばわたしはお前を赦し、お前を肯定しましょう」
「……私を……わ、たしを……」
「おいで、ひとの子。お前は今日から、わたしと−−−この綾瀬と共に在るのよ」

わたしに縋るこの死に損ないが、ほんの少しでも生を望むのなら……なんて。
わたしはただ、何時までも続く寂しさを、この男が薄れさせてくれれば。
そんな自分勝手な理由で、これを欲しているのだ。
神になろうとも人であろうとも、ひとりは寂しい。

「………綾瀬、様…ぁ……!」

そして男は、手を伸ばした。


花骸