「何故信じた?」
「……何?」

この男の全てが気に食わない、いっそ、この手で一片残さず覆滅させてしまいたい。
それこそ"石田三成"がかつて毛利元就へと向けて抱いた感情の一つだ。
"私"にとって奴は腹の底の知れない、無用を嘯くだけの男に違いなく、徳川家康への復讐を遂げるに邪魔な存在でしかなかった。
−−−−敢えて言うならば、これら全てはかつて、の話である。

「あの毛利元就が童の虚言じみた話を信じるとは思えない、何故だ、何が目的だ?………否、そんな事はどうでもいい、私がいる限りあの方を貴様如きの駒に出来ると思うなッ」

牙を剥いて、殺気を溢れさせようが毛利は涼しい顔で庭先の花々に視線を送るだけ。
それがまた私の神経を逆撫でするのだ、恐らく、わざとに違いない。
フ、と毛利が鼻で笑う。

「本質は変わらぬようだな、石田……今は藤だったか」
「なんだと?」
「貴様はあれに…綾瀬に嘘が吐けぬのだろうよ、所作で分かる」

それだけでは信用の理由には値せなんだか、そう言ってちらり、と黒曜を此方に向けた。
……私の綾瀬に対する扱いで判断したと。
当然だ、綾瀬は私にとって唯一の救いで、家族……で、友で、下世話な感情を抱く事など決して許されない存在なのだ。

「綾瀬こそが、今の貴様にとっての豊臣秀吉だ。かつての貴様を知る者なら疑いようもなく信用に値すると考えよう」

否、彼女はそういう存在でなくてはならない。

「………………ならば、良い」
「そうか」
「しかし、良いな、裏切りは許さない!」
「ふむ」
「コンプライアンス意識を持て」
「こん……?」

ぎちぎちと両手に目一杯込められていた力を抜いて、毛利から目を離す。
幾ら世界を巡っても自身に近ければ近い世界である程、調子が保てなくなる。
此処には私の物など、何一つ無いと言うのに。

「…………藤よ、いっそ貴様らを厳島に新たに祀るというのは、」
「何故だ」
「我が領地と知れば、如何なる軍も容易に踏み込めぬであろう」
「……検討する」
「そうせよ」

私達が信仰を確立する事で、得られる物が一つでもあるのなら!餅菓子を堪能し始めた毛利を視界に収めながら、褒められるその時を想像する。
思わず口端が緩んでしまうのに耐えながら、毛利には決して見せまいと慌てて俯く。

先程まで私を支配していた重い懸念はいつの間にか頭の中から消え去っていた。


花骸