慣れない高下駄になんとか踏ん張りをきかせながら、地を蹴り、鍔迫り合いの中を駆け抜ける。
追走する藤がわたしの前に躍り出た二人を峰打ちで沈黙させ、その後ろで刀を振りかぶった一人をわたしが婆娑羅で射抜いて、一息つくように目を合わせた。
「怪我は」
「一つも。藤は、」
「雑兵如きが私に手傷を負わせられるものか」
「そう、そうね……藤、お前は後ろにいた方が良いと思うのだけれど?……顔を見られては面倒だわ」
「そんなヘマはしない!」
うっかり元就に顔を晒したのは誰だったろうか、そう言えば、如何にも都合が悪いと言わんばかりにわたしの言葉を聞き流し、また切りかかってきた兵を鞘で打ち倒した。
わたし達がいるのは厳島の本社に続く階段を登った先の広間となっている場所だ。
今、此処には辺りを固める毛利の兵と、なんとかこの陣を落とさんと、海神の巫女「鶴姫」率いる伊予河野軍の一団が押し寄せていた。
「巫女さまは何を考えているのやら」
「興味ない、邪魔をするなら斬滅するまでだ」
「殺しては駄目よ、後々面倒なのだから」
「……清々しい程人間臭いな」
……何故か、とは思うが理由などわたしにもよく分からぬのだ。
何時も通り茶を啜り菓子を食べ、婆娑羅の稽古をし散歩をして過ごしていたのだが、突然、巫女達が厳島に上陸したとだけ報せを受け、不機嫌を隠しもしない元就に連れられてきたらもうこの状態である。
此処におれ、と命じられるまま照日大鏡の真下で待機していたのだが、やはりと言うべきか、敵方の侵攻は早かった。
しかしどうやら殺す気は無いようで、刀を適当に躱しながら有り難くわたしの婆娑羅の練習台になってもらっている。
きりり、と引き絞った矢が光の尾を引いて彼方へ突き抜ける。
「藤、左を任せる」
「……貴女も、刹那に終わらせろ」
「勿論」
わたしが手に入れたのは長弓であった。
末弭(うらはず)に三つの神楽鈴が付けられた、黒漆塗りの和弓。
婆娑羅で矢を形作ればそれすら射る事が出来、梓弓としても使える。
まさにわたしにぴったりであろう。
矢をつがえ射るたびに、括り付けられた鈴がからりと小気味良く鳴って、その音を頼りにしているからこそ、藤はわたしを見失わずにいる。
「お触り禁止!」
「ああっ、見つけましたよ!」
わたしを羽交い締めにしようとしていた兵を弓で殴り飛ばした直後、この場には不似合いであろう可憐な声。
「皆さん止まってくださーい!私、漸く見つけましたー!」
巫女の装束の少女が弓を片手に其処にいた。
明らかに、わたしを見つめてぴょんぴょんと飛び回っている。
真正面から、わたしを見て。
「……藤!ちょっと、ねえ藤!」
「綾瀬ー!!」
名前を呼ぶとどういう訳か、少女の背後の階段の下からその声を張り上げているらしい。
いつの間に其方まで行っていたのか。