「あらあら」
一番初めに目にしたのは笑ったように朱を差した小さな白面の狐。
屋敷の玄関口にちょこんと脚を揃えて、それはさも当然であるかのように其処に現れた。
いち早く気配を捉えた綾瀬が玄関口に顔を出すと、狐はふっさりとした尾を揺らして彼女の足元へと擦り付いた。
小さな狐に手を伸ばした綾瀬のその背後から、彼女の名を呼びながら猛スピードで近付いてくる気配が一つ。
「綾瀬!綾瀬様!?得体の知れない気配が……ッ」
道着姿で竹刀を手にした藤が廊下を滑るように駆けて綾瀬の前に姿を見せた。
そして伸ばされた手に可愛らしく前脚を乗せた白面を見てまた声を荒げた。
「九曜命様!お初にお目にかかります!わたくし、時の政府から派遣された式神のこんのすけと申します!」
「き、貴様、何故その名を!いい、い、いや、綾瀬!!得体の知れん気配の正体だ!間違いなく!」
「こら、藤。こんのすけはわたしの客人よ、口の利き方にはお気を付け」
「ぐ、……、すまない…………」
こんのすけを抱き上げ、少しばかりしょんぼりと頭を下げた藤を連れて、綾瀬は長い長い廊下を奥へと歩いていく。
もちろん、道着姿の藤を部屋に放り込むのを忘れずに。
何故、時の政府の一員であるこんのすけがわたしの元に来たのか。
明白であるその理由を、改めて当人の口から知る為に。
「改めてお久しゅう御座います、荒御綾瀬姫命様。こんのすけ、お約束の通り道を見つけて参りましたよ!」
「よしよし、偉い偉い。あとで油揚げをあげるわ」
「なんと!油揚げを!?」
何時もの袴と羽織に着替えた藤が愛刀を手に綾瀬の部屋へ向かうと、狐であるのにまるで猫のように喉を鳴らして膝の上で寛ぐこんのすけと、膝に乗せたその小さな毛並みを撫で付ける主人の姿。
とりあえず引っ張り出した座布団の上に、こんのすけを引き摺り下ろした。
「あううっ!九曜命様!乱暴はお止めくださあい!」
「貴様がその名を呼ぶな!私の事は藤と呼べ!」
「こんのすけを虐めるのはお止めったら!」
放り出されたこんのすけを慰めながら綾瀬は藤の頭をぺしりと叩く。
痛くはないが、バツが悪い。
視線から逃れるように目を細めた白面を睨みつけて本題を促した。