忙しなく道を行く人々、ビルの合間を彩るカラフルな看板達。
この世界は懐かしさと愛おしさと、ほんの少しの違和感で満ちている。
「藤、藤、大丈夫?お前、怪我はない?」
「私の事は良い。綾瀬、貴女こそ、怪我はないか?」
「うん、藤が助けてくれたもの」
「なら良い」
締め上げていたチンピラをどしゃりと振り落とし、わたしの服を整えながらビルの隙間から覗く廃墟のような塔を見上げ、返事をする。
裏新宿という街は、まさに危険地帯であった。
人気の無い路地をほんの少し歩いただけでガラの悪い男達に絡まれてしまう。
ここ数日、わたしが絡まれては藤が蹴散らし、の繰り返しだ。
「う、うう……」
「この治安の悪さは考え物だがな」
「普通でしょう?」
「ナイフを脅しに使う事を普通とは呼ばないな」
「あら、そう」
いてぇよお。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ボロ切れのようになってそこいらに倒れている男達の呻き声に、鋭い殺気を飛ばしながらがなり立てる。
「道理の分からぬ小童が……私達の前から刹那に消え失せろ!」
「ひぐっ、ひいいっ!!」
倒れていた仲間をひきずりながら蜘蛛の子を散らすように姿を消していくチンピラ達の背に手を振って見送る。
勿論、そのポケットに名刺を忍ばせるのも忘れずに。
これでわたし達の存在が広まってくれれば言う事はない。
満足そうに鼻を鳴らした、わたしの頭より高い銀糸を背伸びをして撫で付ける。
「刀を使わなかったというのは良い事だわ、良い子良い子」
「そうだろう!」
ぐりぐりとまるで猫のよう、いや、主人に褒美を乞う犬のように掌に頭を押し付けながら、藤は当然のようにわたしを抱え上げた。
そして、地面を蹴ってビルの上へと跳んでいく。