そういえば、この世界には面白い力があるのだと藤が言っていた。
幾つかの属性にわかれ、ほんの少数のひとの子だけが操る不可思議な力、その名を婆娑羅。
婆娑羅を持つ者達を総称して婆娑羅者と呼んだりもするらしい、藤も闇の属性の婆娑羅者だという。
炎だったり氷だったり、出来る事も様々らしいが、中でも闇と光は一部では特別視される事がある、と。
これもまた藤が言っていたのだが。
「天照大神、我が元へ……!!」
「違うったら」
「寄るな毛利ィ!この方の半径二尺以内に入る事、決して許しはしない!!」
翠の戦装束を纏った男が喜色露わにわたしを見つめるのを横目に、あながち間違いでもないな、と他人事のように思った。
藤の威嚇具合からして、これが例のいけ好かない男なのだろう事が容易に想像出来た。
−−何故出会ってしまったのか、簡単に言えばわたしの所為である。
遡ると一時間、二時間程前。
馬より速く走る藤のお陰で、大阪を発ってから僅か一日と半日ぽっちで安芸国に着いた。
瀬戸内海と其処に静(しん)と佇む厳島の朱の鳥居。
目に見える信仰を持たぬわたしからすれば、間近にそびえ立った、あまりにも荘厳な社に少しはしゃいでしまったのだ。
……また簡単に言うと、鳥居の上に立って瀬戸内の景色を楽しんでいた。
当然の如く、藤は憤慨した。
「綾瀬!貴様ッ、悪目立ちしてどうする!即刻降りてこい!!」
「ひとの子はおらぬ故、少しくらい良いじゃないか」
「そういう問題では!ない!」
「どうだ藤、照覧あれ!」
そう、雰囲気だ。
気持ちが大きくなっていたから、自分がこの社の主であるかのような雰囲気で太陽に向かって両手を掲げ、広げた。
それだけだったのだが。
それが合図だったとでもいうように、指先、髪の一房、風に翻る袴の裾……体の内側から溢れ出たような淡い金色の光が、いつの間にかわたしを包み込んでいた。
「綾瀬ッ!?」
「……なあに、これ」
「貴女も婆娑羅者だったか!……いや、そんな事はどうでもいいッ!いいか、人に見られる前に!即刻!降りてこ、」
「ねえ」
「…………なん、と」
「お前、だあれ?」
気付くと、があっと吼えた藤の隣で見知らぬ男が目を見開いていた。
視線はもちろん、今だ光を放つわたしに固定されている。
「あ、天照が……降臨なされた……」
「天照?いや、わたし違……ねえちょっと、藤」
お前からも言って、と見下ろした、その時の藤の鬼より恐ろしい名状し難い形相をわたしは決して忘れる事はない。
……とても恐ろしいものだった。
そして今に至るのだが。
毛利元就と名乗ったこの男、今だわたしを天照大神か何かと思い込んでいるらしく、藤の逆鱗を順調に擽っている。
その前に、そろそろ降りても良いだろうか。