拾ったひとの子は弱々しくわたしの指先を握り返した瞬間、意識を無くしばたりと倒れた。
それはもう、見事に、前のめりに。
着込んでいた戦装束をなんとか脱がせて客間に敷いた布団の上に落とし、わたしは再び屋敷の外へ出て男が這いつくばっていた辺りに足を運んだ。
何時も通りに真白の霧が漂い、一メートル先も見えやしない。

「どうやって来たのだろう」

ひとが誤って迷い込まぬようにしていた筈なのに。
わたしの屋敷は、所謂神域と言う特殊な場所にある。
余程条件にぴったり当て嵌らねば、生きたひとが辿り着く事など有り得ないのだ。
……そう言って、確か昔にも、あの男のようにやって来た子供がいたな。
直ぐに追い返しはしたが、まさか、あれは無関係だろう。

ふと霧の向こうに視線をやる。
ひら、ひら、と何か小さなものがはためく。
近付けばそれの正体は簡単−−−小さな蝶が舞っていた。

「おや、お前」

手を伸ばせば、逃げるでもなく指先に降りて羽を休ませている。
赤白の斑らの羽は、わたしにはよく分からないけれど、きっと珍しい。
暫く羽を上下させていた蝶を見つめて、ふと思った。
そして口を開く。

「なんだ、お前の仕業だったのね」

その蝶の羽の先は、まるでびいどろのように美しく透けていた。


花骸