どういう訳か現在、クンツはボルツの小脇に抱えられていた。「クンツ」「大丈夫よ」もちろんぱきっと開いた四肢も全て綺麗に閉じられてはいたが、「ね?」殺気を滲ませて歩く硬度十の気迫にぴくりとも身動ぎ出来ず、隣を歩くダイヤの言葉にも安心感を抱けないまま言い訳を考えている。
「ボルツは心配してるだけなのよ、もちろん僕だって」
「余計なことは言わなくていい」
「でも」
「勘違いバカがつけあがる」
じろりと落とされた目線に縮こまって、ぐうの音も出ない。それもそうだ、靱性の低いクンツが見回りに出るに当たってボルツやダイヤとの約束が少しばかりあったのだ。一つ、無理をしないこと。二つ、前に出過ぎないこと。三つ、月人を見つけたら必ず知らせること。それを今回、
「三つ見事に破ってくれたなバカ」
「ごめんなさい」
「僕だけならまだしも、ダイヤや先生にまで迷惑を掛けて」
「ごめんなさい」
「しかもそれを知らせたのがよりによってあのクズのクズ」
「反省してます……」
「ボルツってば10分毎にまだ帰って来ないのかって聞くんだから」
「僕は黙ってろと言った!」
「うん……」
居た堪れなくなり視線を落とすとボルツに抱えられぶらりと垂れた自分の手と足が目に入った。大きな罅もすっかり閉じられ白粉が施されている。お説教の原因がまるでなかったかのように寒々しい白だ。
「おい……聞いてるのかクンツ!」
「き、聞いてる!ごめんもうしない!!」
「でもクンツ、前もそう言って。右足抱えて、ぴょんぴょん跳ねながら帰ってきたわね」
「うぐっ」「で、」
「結局こうなってる訳だから」
味方だと思っていたダイヤが突然敵に早変わりしたことでクンツは大きく肩を落とした。ボルツとダイヤの意見が合っている時に反論したところで、優しく丸め込まれて、厳しく毒づかれてお終いだろう。
「あのねクンツ、僕達だって別に怒りたくて怒ってるんじゃないのよ?」
知ってるよ、そんなこと。
でも学校の中の仕事はクンツの望む戦いの形ではないのだ。幸いにも硬度だけなら高いクンツは余程強い衝撃を受けなければそうそう開くこともない。先の月人との戦いではモルガと触れ合った際の罅にたまたま、運悪く、月人の放った矢が当たっただけだ。
「でも俺は戦わないと」
「何の為に」「だって戦えるから」
「答えになっていない」
「先生は何も言わなかったから大丈夫よ」
「……ダイヤ貴様っ、どっちつかずもいい加減に!」
「キャッ!怒鳴らないで!僕は二人の味方なのよボルツ」
「ただの優柔不断だ」
結局何も解決しないまま。今度はダイヤに向かってお説教紛いの暴言をぶつけ始めたボルツに未だ抱えられて、いつ降ろされるのか、そればかりを考えながらクンツは白い廊下の先を見つめた。
花骸