あーだのうーだのと言いながら足の間に置いた器の白粉花の実をごりごりとすり潰す。今日はとてもいい天気でまさに散歩日和だったと言うのにどうして自分はこんな陰気な医務室で陰気なルチルと一緒に白粉を量産して一日を過ごしてしまっているんだろうか……

「言いたい事はそれだけで?」
「嘘だからそのノミしまって、今すぐに」

窓際で日記をつけていた筈のルチルがいつの間にか背後に立って俺を見下ろしていた。心なしか目が怖い気がする。慌てて弁解してはしっかりと出来あがった白粉の器をそのまま押し付ける。そもそも何故医務室で雑用をこなす羽目になったかと言うと、まあ、この間のひよわツートップばっきばき事件(命名モルガ)でボルツから暫くの見回り禁止令を出されてしまったのだ。そこはかとなく威圧してくる先生と、完全に威圧する気満々のボルツの二人に挟まれては流石の俺も反抗する気なんてさらさら起きなかった。先生、フツーにしてるだけだった筈なのにこわかった。本来ならボルツからさらに発令された外出禁止令を全うする為部屋でじっとしているはずだったのだがあまりにも暇で……大人しくしていれば廊下でばったり、ルチルと鉢合わせて手伝いに駆り出されることはなかったと今は後悔してる。

「やっぱり白粉花の実をすり潰すのはクンツが一番丁寧ですね、無駄に早いですし」
「無駄って言うな!立派な技能だぞ!」
「ああはい、雑用には欠かせない大切な技能」
「このクソやぶ」

トンカチを出してきたので慌てて口を噤む。物理で脅してきた、やっぱりとんでもないやぶだ。

「ヤスリはどこでしたっけ」

……黙る。

「早く見回りに戻りてえよー……」
「こっちは誰かさん達の所為でそういう話は聞き飽きてるんです、止めてください」
「フォスと俺とじゃ話の中身が違うだろ」

どうもルチルは、俺とフォスを一緒くたにして見ているようなきらいがある。押し付けられた仕事もやっと全部片付いて楽になった事だし、窓際に腰掛けて高くにうっすらと輪郭を散らす昼の月を眺める。

「フォスフォフィライトと違って出来る仕事はいくらでもあるでしょうに」
「似たような事をダイヤやジェードにも言われた」
「あなた大半のひとにそう思われてますよ」
「嘘だあ」「残念ながら本当です」

今度は自分が溜め息をつく。「それで、フォスみたいにふらふらしてる理由はなんですか?」全くこっちを見もしないで、そのくせやけに食いついてくるルチルをじとっと睨み付けて口を開いた。

「……中途半端だから」
「中途半端とは」「そのままの意味」

抱えた膝に頭を寄せる。思ったより簡単に言葉が出てきた……きっとルチルが紙をめくる音と中庭で草木が風に揺れる音しかしないこの心地いい空間の所為だろう。そうでなきゃ普段なら言わない事を言ってしまう理由とか、とても悲しくなってしまう理由とか説明が。いや、考えるのは止めよう。

「強くもなければ弱くもない、取り柄がある訳でもないし特に出来ない事がある訳でもない」
「確かに、クンツあなた、良い意味でも悪い意味でも普通ですねえ」
「うるせー!それを気にしてるのよ!」
「ああ失礼……でも」

少なくともボルツにとってクンツは特別なんですよきっと。ダイヤや先生と同じくらい、もしかしたらそれ以上に。なんだそれ、と眉を寄せてルチルを睨みつけても答えは返ってこない。日記を閉じてルチルが薬棚を漁り始める。

「訳が分からない」
「本人に分からないものを私が知る筈ないでしょう」
「確かに」
「……さあ、そんなことより!仕事はまだまだたっぷりあるんですから」
「えええ……」
「次は糊作り、お願いします」
「ええええ」
「私は、少し休みたいので」
「こ、こいつふざけうわっもう寝てるっ」

日が当たってぽかぽかのベッドで横になったルチルはすでに安らかに夢の世界へ旅立ったらしく目を閉じてピクリとも動かない。仕事を押し付けて目の前で。

「……くそう」

嫌々ながらも刷毛を手に取って、さあ始めようと姿勢を正した時だった。

ざばぁん

「んん?」

池に誰か落ちたのか。多分フォスだな。

花骸