黒ネイル夏油

 学校のみんなと一緒に遊びに行くことになった。久しぶりの休暇だからみんな私服に着替える予定だ。普段は真っ黒な夏油先輩はどんな服を着てくるんだろう?ワクワクしながら私も服を選んだ。お気に入りのワンピースに、足がきれいに見えるミュールサンダル。夏油先輩にかわいいって思って貰えたらいいな。そんなことを考えてワクワクしながら集合場所へと向かう。集合場所には夏油先輩だけが立っていた。他の皆はまだ来ていないらしい。そして夏油先輩はすっごくお洒落だった。爽やかなミントカラーのシャツにゆったりしたボトム、その上手には黒いネイル。男の人なのにネイルまでするなんて夏油先輩は本当にすごい。お洒落だ。ついぼーっと先輩を見ていたら、先輩が柔らかく笑いかけてくる。
「君の私服を見るのは久々だね。かわいいよ」
 歯の浮くような台詞だけど、夏油先輩にかかればなぜか自然と素敵な台詞に聞こえる。
「……先輩も、おしゃれですね」
 照れくささから顔を伏せつつ返事を返し、ある事に気がつく。
「……先輩、ペディキュアも塗ってるんですか?」
「うん。サンダルで足の爪が見えるからね」
 先輩の足の爪はきれいに切りそろえられて手の爪と同じ色で塗られていた。それを認識した瞬間、私は猛烈に自分の足が恥ずかしくてたまらなくなってしまう。だって私の爪はスッピンなのだ。そもそも私には「サンダルで足の爪が見えるからペディキュア」という考えが一ミリもなかった。恥ずかしい。いたたまれない。足元を隠すため、直立姿勢でハンドバックを体の正面で持ってみる。これなら夏油先輩から私の足は見えないはず……と思ったのだったが。
「……荷物、持とうか?」
「え?」
「鞄持ち替えてたよね?重いんじゃないかと思って」
 夏油先輩の好きなところ。細かいところまで見てくれて気遣ってくれる優しいところ。……だけど今日だけはそれが裏目に出た。優しい言葉に心揺れるが、だからといってバッグを渡す訳にはいかない。
「えっと、大丈夫です!」
「本当に?無理してない?」
「本当の本当に、大丈夫です」
 私と夏油先輩の押し問答は、後から来た同期の七海が止めるまで続いた。

 夏油先輩が執拗に足を隠すハンドバックを持とうとしたのは、実は私の足の小さな爪をかわいいなと思ってのことだったらしいけど、私がそれを知るのはずっと後のことになる。

夏油
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