02_ハル

中学2年生の夏の日。
友達とショッピングに街へ出いていたとき、事務所の人からスカウトを受けた。もともと人前に出ることは得意じゃなく、写真を撮られることもそんなに好きではなかったから断ろうかとも思った。けれど一緒にいた友人から『すごいじゃん!やってみなよ!』と背中を押されて事務所に入ることにした。
はじめは慣れないことばかりで大変だったが、少し時間が経つといろんな服を着れることやどんなポーズをとるかなどモデルの仕事をすることが楽しくなっていた。

「心晴ちゃん雑誌みたよ!すっごい可愛かったー!!」
『ありがとう!』
「次の表紙の雑誌も絶対買うね!」

友達やクラスメイト、他のクラスの人から自分の載った雑誌の感想を言われることが増え、ますます仕事が楽しくなっていた。

冬になる頃には人気モデルと話題になるまでになっていて自分でもびっくりした。
人気が出るにつれて仕事の量も増え自然と朝や放課後など時間が削られ、学校も早退や休むことが以前よりも増えた。
それでも勉強も仕事の合間にやっていたから学業に支障はなかったし、仕事以外で休むことはなかったから出席日数も足りていた。
毎日が充実している日々を送っていた。

はずだった。

中学3年にあがったばかりの頃、朝から入っていた撮影が急遽中止になり、休むはずだった学校へ行けるようになった。新しいクラスで早く友達つくりたいな、今日の授業は何をするんだろう。と、胸を踊らせていた。
朝の早い時間帯、まだ生徒はあまり登校していなかったが下駄箱近くに見知った顔が何人かいた。その中には背中を押してくれた友人もいて、わたしは声をかけようとした。

「今年も心晴ちゃんと同じクラスだわー…最悪」
「早退とか休まれるとさ、日直早く回ってきたり授業急に当たるから嫌なんだよね」
「そうそう。モデルだからって調子のってるよね」

わたしは考えるよりさきに下駄箱の陰に隠れた。
今…なんていった?これ以上聞いてはいけない気がするのに足はそこから動かない。いつもより音が鮮明に聞こえる。心臓が急にドキドキと大きな音を立てている。息をするのを忘れるくらい頭の中の整理が追いつかない。

「まぁモデルやってるから友達続けてるってのもあるよね。友達に自慢できるし」
「吉田とかモデルと付き合ってるって自慢したいから近づいてるんだって」
「マジで?てか先生とかも明らかに贔屓してるよね」
「ほんとそれ!わたしらと態度違うし」

足音がどんどん離れていくはずなのにその声ははっきりと耳に聞こえてくる。
ずっと友達だと思っていた人たちに自分がそんな風に思われていたなんて、これっぽっちも思っていなかった。
足が震える。呼吸が荒くなる。目頭が熱くなる。
このまま教室に入ることができず、結局その日は学校には行かなかった。いや、その日からわたしは学校に行くことがなくなった。きっと教室に入ればいつも通りに皆が寄ってきて接してくれるのだろう。だけどわたしはどんな顔をして話していたかなんて忘れてしまった。
学校に行かなくなった分、今まで以上に仕事に取り組んだ。
今のわたしにはこれしか生きがいがなかった。モデルをしているときだけすべてを忘れていられるから。

気づけば季節は秋になろうとしていた。