07_握手会へ

今まで生きてきた中で1番緊張している。心臓の音で周りの音が聞こえない。受験の時も緊張はしたが、ここまで酷く緊張はしていなかった気がする。
昨日の夜からずっと何を言うか考えてはシュミレーションを繰り返した。
漢らしくその場で言えればいいのだが、当日のことを考えただけでも頭の中が真っ白になる。
大きく深呼吸をして貰ったチケットを手に会場の入口に向かった。

「(やべぇ…すぐそこにいるんだよな…)」

数日前、来栖から“ハル”の握手会のチケットをもらった。何度も日付と時間を確認して、たった一瞬のために普段考えもしない服を選び、言う事を何度も繰り返しシュミレーションした。
周りには同い年ぐらいの人や大学生のくらいの人など様々だったが、みんなどこか緊張しているようにみえた。

「ただいまから握手会を開始致します。係員の指示に従って整理番号順に並び入場前に身分証の確認をさせていただきます」
「み、身分証…!?」

本人確認のために身分証が必要なのは最近ではよくあることだ。
だが今手元にあるチケットは来栖から譲り受けたもの。当然、俺の身分証では一致せず入場できない。一気に血の気が引いた。“ハル”に会えるという嬉しさから完全に忘れていた。
頭の中で整理しているうちに列は進み、入場口前まできてしまった。

「はい、チケットと身分証を」
「あ、えっと俺…友達が行けないからって譲ってもらって…」

チケットと自分の学生証をスタッフに渡した。

「あぁ、君が例の子か。どうぞ、中へ入って左に行って呼ばれるまで待機しててね」
「え、あの…大丈夫なんですか?これ…当選者確認してるんじゃ…」
「大丈夫だよ。このチケットは≪特別≫だからね」

スタッフの言葉の意味が分からないまま、中へと誘導された。
返されたチケットの半券を見るが特に変わったものは見られない。
たしかに名前が印字されているわけでもない。気になるといえば右下に星のマークが入っていることぐらいだった。

「次の方入ってください」
「は、はい!」

進む順番は早く、考える暇もなく呼ばれ半券をポケットにつっこんだ。
心臓がまた大きな音を立てる。息をするのを忘れるくらい緊張しながら、カーテンで仕切られた部屋へと足を踏み入れた。