08_握手会で

「デビューしたときからファンでした!これからも応援しています!」
『ほんとに!?すごく嬉しいです!これからも応援よろしくお願いしますね』

13時から始まった握手会。
握手してファンと言葉を交わすのはほんの数秒。皆それぞれの想いをたった数秒しかない中で伝えてくれた。
できる限りその想いに応えたくて、わたしも笑顔でお礼を言った。
目の前の壁に掛けられた時計は既に30分を指していた。
入口のカーテンが開く度に、わたしの心臓はドクンと音を立てる。
目に入った赤いとがった髪、右目の上についた傷痕に赤い瞳。毎日のように学校で会っているというのにドキドキが治まらない。
はたから見ても緊張しているのが分かるくらい動きの硬い切島くん。
こんな姿を見るのは初めてで新鮮だった。

『今日は来てくれてありがとうございます』
「はっはい!」

切島くんがわたしに伝えたいことは知っている。だけれど彼の口から直接“ハル”としてのわたしに伝えてもらいたくて後ろに立っていたスタッフに少しだけ時間を多くもらうことをお願いしていた。

「俺…ラジオでハルさんにアドバイスもらって自信が持てるようになって…おかげで無事に雄英に入れました!ありがとうございます!」
『お役に立ててよかったです。わたしもあなたの行動にすごく助けられました』

握った切島くんの片手を両手で包み込み、祈るように額に近づけた。
何のことか分かっていない切島くんは、少し驚いたような顔をしていた。
流石に時間がきたのかスタッフが後ろから近付いてきた。
そっと手を離すと切島くんはスタッフに誘導され出口へと向かって言った。

『これからも頑張ってくださいね、烈怒頼雄斗さん!』
「…!はい!!」

部屋から出て行った切島くんを最後まで目で追うと小さく息を吐いた。他のファンと握手することも緊張するけれど、切島くん相手になると余計に緊張してしまう。いつもの“ハル”を演じられていただろうか。変なところはなかっただろうか。
まだ心臓がドキドキしている。