ここに来てそれはずるい


拝啓、お父さん、お母さん、陽。
神野の悪夢からたくさんの事が積み重なり、お手紙が遅くなってしまったこと、ごめんなさい。
それと、寮の許可をしてくれてありがとうございます。
林間合宿に敵連合が攻めて来て、みんなが怪我をして、爆豪さんがさらわれて。
平和の象徴がいなくなってしまって。
驚く出来事が多すぎて、まだ頭の中の整理が追いついていないです。


それでも私達に止まっている暇はなく、常にヒーローになる為の志を高く持たなければいけません。
雄英高校は今回の事件でたくさんの事が問題視されています。けれど、雄英に入った事全く後悔していません。ここで頑張ると決めたからです。

それに、私は前よりも少しだけ成長した出来事がありました。
詳しくは言えないのですが、私は轟さんに初めて自分の意見を言えました。
声は情けなく震えていて、言ってる事もめちゃくちゃだったと思います。
けれど、彼はそんな私の言葉もしっかりと受け止めてくれ、それも考えた上での答えを出してくれました。


さて、少し暗い話はここまでにして楽しいお話しをしましょう。

この手紙は、以前私が暮らしていたマンションではなく、寮で書いています。
同封してある写真を見ていただければわかると思うのですが、とにかく大きくて広いです。
似たような建物が三学年分あります。それをこの短期間で作ったかと思うと驚きです。さすが雄英…!

男女の共有スペースも広々としていますし、テレビなんて物凄く大きいです。
しかもエレベーターまでついており、何だここ…と驚くことばかりです。
個人部屋もトイレと冷蔵庫、ベランダなどなどホテルの一室並み。
財力がえげつないですね…。


入寮初日は個人部屋の荷物整理をしました。
マンションにあったものをこちらに移動させてきただけなので、あまり代わり映えはないですが、新鮮な気持ちです。

そのままの流れで、1ーA部屋王をする事になり、皆さんの部屋を見学させてもらいました。
皆さんの個性が溢れていて、見ていて楽しかったです。
緑谷さんのオールマイト部屋だったり、響香ちゃんのロック部屋だったり。
ちなみに一番驚いたのは轟さんで、洋室のフローリングだったはずの部屋が和室の多々美に変わっていました。
本人いわく頑張った、とのことです。
頑張ってどうこう出来るものでは無いと思うのですが、皆さん突っ込まないでいらっしゃいました。


「次は絢ちゃんの部屋だね!」
「楽しみだ!私!」
「…と、透ちゃんとか、皆さんの後だとちょっと霞んでしまうお部屋なのですが…」
「気にすんなって、黒井!轟の後なら誰でも同じだ」
「そうそう」
「そうか?」
「そうだよ」
「じゃあ、…どうぞ」


私の部屋はマイナスイオンが放たれてるだとかなんとか。
貶されているのか褒められているのか分からず、首を傾げるしかできませんでした。

ちなみに部屋王に輝いたのは砂糖さんでした。彼の振る舞ってくれたケーキが美味しかった多数票で、決まりに。
部屋関係ない、と思いましたが、みなさんが楽しそうなのでそれもいいでしょう。


また明日から新しい課題が出されると聞きました。
これからも私は頑張っていきます。帰省は中々できないと思いますが、こうやってまた手紙を送らせていただきます。


追記 砂糖さんにケーキのレシピを頂いたので、
   よければお家で作ってみてください。
   

黒井 絢


ーー


ペンを置いて、グッと伸びをした。
勢い良くしすぎたせいで、ちょっと後ろに椅子が傾いて驚いたが、倒れずには済んだ。
時計を見ると結構遅い時間になっている。部屋王を始めたのも遅かったし、当然といえば当然なんだけど。

明日、便箋を封筒に入れる事にし、ペンを仕舞おうとすると控えめなノックが鳴った。
誰だろうか、こんな時間に。


「はい、どなで_」
「遅くにワリィ」
「とッ…!」


まさか彼とは思わず、大声を上げそうになった自分の口を瞬時に押さえた。
轟さんは部屋王のときからずっと眠いと言っていたはずだが、まだ寝ていないのに驚いたし、なぜ私の部屋に来たのかも分からない。


「黒井に話がある」
「は、え、…ど、どうぞ…」


いつもより少し早口に言った轟さんを、とりあえず部屋の中に通した。
お茶を用意しようとしたら、すぐ終わるとのことで、つい身構えてしまう。
それは仕方ない。色々あって忘れていたが、私は…それに気づいたのだから。


「お、お話とは、」
「蛙水が泣いた」
「ぅえっ…!?」


あまりにも端的すぎる言葉に、変な声が出た。
もう少し具体的に説明をお願いすると、梅雨ちゃんは轟さん達を止められなかった事が悲しかったようだ。要約するとこういう事だと思う。


「それで、その、…私にどういう関係が」
「…泣くんじゃねぇかと思って」
「私が?ですよね?」
「ああ」


テーブルを挟んでお互い無言の時間を送る。
突然のお前泣くんじゃねぇか宣言で文字通り頭がこんがらがっている。
何か言わなければ、という思いでなんとか言葉を絞り出した。


「うぬ、自惚れていたら、大変お恥ずかしいのですが…それは、…私を、心配、してくださっていると言うことで、間違いありませんでしょうか……」


ほんっと自惚れてんな私!これで、いや、ちげぇとか言われたら羞恥で死ぬ。
寧ろ勘違いしたことに申し訳なくなって散る。


「おう」
「…え、」
「どうした?」
「イエッ、ナンデモ!」


心配してくれたぁー!危ねぇー!いや、危ないのかわかんないけど、危ねぇー…。
内心バクバクで手汗かきすぎてやばい。
そんな心が落ち着かない状態で轟さんの話を聞いた。


「俺を止める時に、怖いって言っただろ、他の誰かが怪我したりするのが」
「…はい」
「病室の時でも、あんなに大きい声で誰かの意見を否定する黒井を初めて見た。お前は、そんなデケェ声も出さねぇからびっくりした。でも、今思い出してみれば、誰かの意見に口出ししたり、声とか、手とか震えてたりしてたのは、慣れねぇことをして、止めようとしてくれてた。それなのに…」


珍しく言い淀む轟さん。すべてをストレートにぶつける彼には珍しい。


「…俺は、切り捨てるような真似をしちまったから」
「……」


弱気だ。轟さんがびっくりするくらい弱気だ。いや、いつもが強気というわけではないが、自分を卑下するような事はしない。
その轟さんは今、私の様子をちらりと伺って目線を下げた。
両目で色が違う目は、私が焦げるほど強く見つめ続けるというのに、自信なさげに伏せられている。


「…えっと、……、、そ、りゃあ、まぁ、悲しいかったし、怖かったですけ、」
「すまねぇ…」
「だい、大丈夫です!もう大丈夫ですから!」


今にも切腹するんじゃないかってほどに落ち込んでいる轟さんは、なんか危うい。
下手な事は言わないようにしようと心に決めた。


「…それで、危険な状態にはなったかもしれませんけど、…こうやって、怪我一つなく、五体満足でここに居るから。相澤先生には怒られちゃいましたが、私は、轟さんが帰ってきてくれたから、もう…」


あれちょっとまってこれ凄い恥ずかしいこと口走ってないか。
やばい、轟さん変な目で見られているかもしれないと、彼を盗み見ると目元が和らいで、小さな口は控えめに弧を描いていた。


「ありがとな、黒井」

「あ、……いえ、その、…ど、ドウイタシマシテ」
「じゃあ、そろそろ部屋に戻る」


顔がえげつないくらい熱くなってる。特に耳がやばい。
頼む轟さん気づいてくれるな、そのまま振り返らないで出ていってください、お願い。


「…顔赤ェけど、大丈夫か?」
「だだだだだ、大丈夫です!ちょ、ちょ、ちょっと部屋が暑かっただけなので!!デハ、オヤスミなさい!」
「ああ。おやすみ」


ゆっくりと部屋の扉を閉めて、その前に座り込んだ。


ほ、惚れてまうやろーーーー!!!!


ーー


「ハッ!今姉ちゃんが照れてる気がする」
「エッ、何そのセンサー、お父さんコワイ」

- 9 -
←前 次→