全ての始まり


拝啓、お父さん、お母さん、陽。
前回の手紙から一ヶ月程でしょうか。USJでの事件も私は無事でした。安心してください。
やっと都会にも慣れて電車を乗り間違えることも無くなりました。
度々スマホで地図を見ようとするとなぜかアメリカ辺りにに飛んでいっていますが、私は大丈夫です。
ようやく雄英にも慣れましたが、雄英の制服を着るのは慣れません。
好奇の目で見られて私が今一番嫌いな時間は登下校です。
正直私服で行きたいですが、そのような事をして成績を下げられてはたまらないので、毎日吐血しそうになるのを耐えて登下校しています。

私は現在とても顔が整っていらっしゃる、轟さんという方と僭越ながら隣の席で過ごさせて頂いております。
轟さんとは?と思うでしょう。予め説明しておきます。
彼は雄英の推薦で入学され、それはそれはもうすごいお方です。纏っている雰囲気が違います。
しかも、あのNo.2ヒーローと名高いエンデヴァーの御子息とのことです。それで纏っている雰囲気が違う理由がわかりました。

父さんも母さんも普通でいてくれてありがとうございます。そして、私を普通の目立たない様に産んでくれてあるがとうございます。誠心誠意感謝します。
陽も私から二人の良いところを丁度いいくらい吸い取ってくれてありがとうございます。
遠回しに貶しているのではなく、これは本心です。
そんな家族が私は大好きです。

話がそれてしまいましたが、轟さんは近付き辛いクールな雰囲気を纏っていらっしゃいますが、とても優しい人だと実感しました。
こんな私が言うのもおかしい話ですが。
とりあえず、その事について、この手紙を書こうと思います。


私は昼休みに自作のお弁当を友人達と食べました。とても可愛らしく優秀で、私が6軍だとしたら1軍にいるような女の子達です。
友人達というもの私にしては生意気ですが、彼女たちの好意に甘えさせていただきます。場違いだとは思いますが、なにせ彼女達は色んなタイプの完全美少女。
私のような人間でも同等に接してくれるのです。雄英は人選まで素晴らしかったです。
何だ乙女ゲーは、と思ったのは私だけですが、それでも元気に細々とやってます。



その後、私は決まって行く場所があります。それは図書室です。
何故なら、どこをどう切り取っても普通な私が美少女達の中にいるのは半分申し訳なく、半分居た堪れなくなったので、図書室に行くという日課ができました。
皆さんキラキラしていて、目が潰れるれてしまいそうです。どうせなら目を悪くしてキラキラを半減させたいです。
私の個性は強化しかできないので役に立たないのですが。


その日も私はご飯を食べ終わった後、図書室に直行しました。
良かった、今日も目が潰れないで済んだ…と毎日安堵して図書室までの道のりを歩いています。

本を見て回り、次の授業までの時間を潰していたとき、私はある本を見つけました。
私の好きなゴリっゴリのファンタジー小説です。個性がない世界での生活から急に異世界へ飛ばされるそれは胸熱です。
それはさておき、私が目をつけたそれは高い棚の並びでした。
私が平均的身長であることは知っていると思いますが、高校ではまだ伸びていません。
むしろ縮みました。

一ヶ月前は私とあまり変わりませんでしたが、今ではどうでしょうか。男子は中学から成長期と言いますし、もう抜かされてしまったのでしょうか。
中学に行った陽はきっと女の子達に囲まれているのでしょう。また楽しいお話を聞かせてください。

話は戻りますが、スライド式の脚立が雄英にはあります。定位置は真ん中の本棚なのですが、なぜか一番奥の本棚にありました。真ん中に戻しておくように、と注意書きがあるのに、戻していない人がいたようです。
雄英でもこんな事があるのかとしみじみ思いました。

私のクラスにも一見不良のような爆豪さんという方がいらっしゃいますが、彼は根が良いらしくそんな事は絶対にしません。
爆豪さんの話はまたするとして。

しみじみした後、脚立取りに行く為そこを離れようとした時、急に暗くなりました。
停電になったわけではなく、私の後ろに誰か立っていたのです。


「どれだ」
「!!?」

「本。取りたい本あったんだろ」
「あ、えと、その光の物語、です」


聞いたことのある声が頭上で聞こえました。恐れ多くて何故か振り返れず、とてつもなく愛想が悪かったでしょう。謝っておきます。すみません。
後ろの親切な方は一歩進み、左手を本棚に突いて、私の上にある本を軽々と本棚から引き抜きました。

元々近かったのにもかかわらず、もう一歩進まれ、それによりほぼゼロ距離。
安全のためについた左手は私にとっては危険でした。
パンドラの匣に閉じ込められた気分でした。全く使い方は違うのですが。

そんな近かったのもほんの一瞬。一瞬にして私の命の危険は去りました。
しかし安堵もほんの一瞬。私には次の危機が待ち構えていました。



本を取ったのは私ではなく、後ろの親切な方。つまり本はその人の手の中にあります。
私は本を取ろうとしていたとき、その人に話しかけられ、咄嗟に答えた訳ですから、視界には本が沢山。
その為私は後ろを向かなければなりません。

少し息を吐いてゆっくりと足を動かしました。
斜め上を見ると赤と白の髪にオッドアイの目。痛々しい火傷のあとが目に飛び込みます。
だがしかし顔は整っているというチート。轟さんでした。

もう近くない距離だと思っていたのに、結構至近距離で、美形を近くで見た驚きのあまり後ずさりした結果、本棚で勢い良く頭を打ってしまいました。
頭打つのなんていつぶりだろう。と思いましたが、その前日に家で頭を打ってました。


「いっ…!」
「おい、大丈夫か?」
「すみませ、大丈夫、です…」


視界が一瞬揺れたので、ズルズルと床に座り込むと轟さんも一緒にしゃがんでくださいました。申し訳なく思うのですが今はそんな状態ではありません。
患部に手を当てているとぬるっとした感覚を感じます。
まさか、と思いゆっくりと手を前に持ってくると赤いそれが広がっていました。


「っ、お前、血!」
「や、大丈夫、ですから」
「大丈夫な訳ねぇだろ…!ちょっと動かすぞ」


轟さんは私の鎖骨あたりに腕を持ってきて、私の上体を少し前にして、怪我の具合を見てくれました。頭といえば小さな傷でも多く出血することが有名です。
すると彼は私の患部になにか当てました。手との間になにか感じます。


「ハ、ハンカチ…!?」
「ああ、出血が多いからな。俺のやつですまねぇが」
「いや、むしろごめんなさい…」


自分の不甲斐なさでぐっと唇を噛みました。
それにひんやりとした冷気を感じるので、きっと轟さんが個性を使ってくれているのでしょう。
その後、自身のブレザーを枕代わりにして、先程の本をブレザーの下に敷いて頭を高くし寝かせてくれました。
怪我の対処まで完璧とは雄英凄い。


轟さんに見守られながら、彼のブレザーを使い、彼のハンカチを血濡れにしている状況を見られるという不思議な状態が続きましたが、いつの間にか轟さんがリカバリーガールを呼んでくれていたようでした。

リカバリーガールの治癒で治して貰いましたが、一緒に来た相澤先生には今日は保健室にいろと言い渡されました。
このあとはヒーロー基礎学で対人の訓練をするらしく、また倒れられたら困るとの事でした。確かに、また他の人をこのハンカチのように無様にする訳にはいかないと、瞬時に理解し、立ち上がろうとするとリカバリーガールに止められました


「ちょっと待ちな、自分で歩いて行くつもりかい?」
「…そうですが…」
「何言ってんだい、そんなすぐに無理に決まっているだろう。あの子に運んでもらうんだよ」


そう言ってリカバリーガールは轟さんの方を向きました。
何やら嫌な予感がします。私の勘はよく当たるとか全くそういうことは無いのですが、いや、全く無いこともないのですがとりあえずこのときの私はいつもより0.5倍ほど冴えていたのだと思います。


「いやいやいや、彼には本も取っていただいて、ハンカチもブレザーも貸していただいた挙句血濡れにしているのだから、それは…!」
「別にいい」
「しかし…」
「大丈夫だ」


そう言わてれしまっては断れません。そうして私は、轟さんに運んでもらいました。
運び方は察してください。しかも彼はそれを普通にやるのです。イケメンこわい。
もし轟さんのファンの人がいようものならば、私は瞬時に抹殺されるでしょう。
そうでなくても、そろそろ嫌がらせが始まったり、殺害予告が来ても不思議じゃありません。
私からの手紙がとだえた時は殺害予告されたのだと思ってもらって結構です。

これが私が、轟さんを優しい人と思った理由です。
ハンカチは後日新しいのを買いに行きます。ブレザーはギリギリ汚れていなかったので、全力でファブをして返却しました。
もちろんファブは新しいのを買いに行きました。しかし間違ってフローラルの香りを買ってしまったので、彼からはフローラルの香りが漂ってきます。
それが匂っても違和感がないところは、さすがとしか言いようがありません。

この手紙を読み返して、何だこの乙女的展開はと思いました。
青春によくあるアレでしょうか。

とりあえず手紙はこの辺りとします。また近状報告で送ります。


追記 どんなハンカチを買えばいいでしょうか。


黒井 絢



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「お母さん、頭から血が出る事は青春によくあるアレか?」
「絢がそう思うのならそうなんでしょうね」
「そうなのか…」


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