彼も男子高校生


拝啓、お父さん、お母さん、陽。
お返事ありがとうございます。もう頭の傷は治っているので心配しないでください。
陽からの質問ですが私の身長は今、157センチです。クラスの中では低いですが、女子の中では丁度平均くらいにいます。
またこれから伸びる予定です。

今回は先日あった雄英体育祭のお話をしようと思います。
そうはいっても、見てくれていたという話は聞いているのですが、大きなイベント事があったときには書くと決めていたので、こうして手紙を書いています。

まず、前回の手紙に出てきた轟さんですが、1年では準優勝でしたね。さすがとしか言いようがないですし、トーナメントに参加もできなかった私からするとすごい成績だと思います。私が雄英体育祭でびっくりしたのは、轟さんが左側の個性を使った事です。
髪色からわかるように右から氷、左から炎を出す個性なのですが、今までの授業でも右側の個性しか使っていなかったようなのです。
つまりは半分の力しか出していなかったわけですが、それでもA組でもトップと呼ばれている方ですので、やはり住む世界が違います。

しかし、そんな轟さんも普通の男子高校生のような言動をすることがわかりました。
それは、開会式前のお話です。


組ごとに控室があるのですが、そこで入場までの時間を待っていた時に轟さんが、緑谷さん、あの2回戦で戦った、癖毛のそばかすがある方に宣戦布告をしました。
緑谷さんは予選で1位を取られましたが、個性把握テストではA組内で最下位でした。
緑谷さんの個性は超パワーでとても凄い個性なのですが、何故だが体がついていかずあの様に骨折したり腫れたりしてしまうのです。

緑谷さんは温厚な性格で、轟さんも物静かな方で宣戦布告などは縁のない方達だと勝手に思っていたのですが、それは違った様でした。
ですが、あのときの二人はとてつもなく燃えていて、青春だと思いました。
やはり、皆さん普通の男子高校生でした。


しかしその後の轟さんは、随分気が立っていていつもよりも話しかけにくくなっていました。
こんな私ですが、あの図書室での出来事から少しずつ会話を交させて頂いております。
実際轟さんが私の名前を呼んだ時、知っていてくれていたことに驚きましたが、雄英体育祭内では轟さんと言葉を交わすことも出来ませんでした。


それどころか睨まれて危うく意識が無くなるところでした。


そんなこんなで終わった雄英体育祭でしたが、次の日にばったりと轟さんに会ってしまいました。
私は丁度一週間の食料の調達終わりで業務スーパーから帰ってくる所でした。
本当にいつも思いますが、あそこは戦場です。
おば様たちがあれよあれよという間に取っていってしまいます。
最近やっと突っ込めるようになってきた次第です。
経験者のお母さんから何かコツなどはありますでしょうか。
あったら教えてほしいです。私のお財布を守るために。

話がそれてしまいましたが、轟さんも出かけたりするのだと思いました。
別に引きこもりとかそういうことを言っているのではなくて、成績も上位にいらっしゃるので、勉強に当てていたり、トレーニングに当てているのでは、と勝手に思っていたからです。


「お」
「こ、こんにちは」
「…おう」


それから会話が続かないのが私の悪い癖です。何か話題、話題を探そうと頭をフル回転させていると轟さんから降ってきてくださいました。


「…スーパー行ってたのか?」
「そ、うです。今日は安くなる日なので…と、轟さんは何を?」


会話を途切れさせないために質問を返すと、病院だとおっしゃいました。
ここからはプライバシーの侵害になってしまうので秘密にしますが、病院のついでに色々と回っていたら遅くなってしまったようでした。
夕暮れも消えかかっていて、そろそろ暗くなりそうです。
私も早く帰らなければと、筋肉がパンパンになっている腕に力を入れて、エコバッグを持ち上げました。


「では、私はこれで…」
「待て」
「!は、はい…?」
「送ってく」


まさかの発言に声が出ませんでした。いえ、轟さんが薄情な人間だと思っているのではなく、こんな私なんか手伝っている暇なんてないと思ったからなのです。
決してそういう意味ではないのです。


「だだだ、大丈夫ですよ…!」
「腕さっきから震えてんぞ」
「うっ」


指をさされて指摘されてしまえば、もう逃げ道はありません。
くそう、腕立て伏せやダンベル上げでもしておけばよかったと後悔しました。
今の目標はとりあえず、腕をムキムキにする事です。

轟さんに送ってもらう事になり、軽い方のエコバッグを渡そうと思ったのですが、気付かれていたようで、重い方を持たせてしまいました。
なんて優れた観察眼でしょう。今だけはその観察眼に働いてほしくありませんでした。


「一人暮らしか?」
「はい、マンションに」
「…全部自分でやってんのか」
「…はい、そうですが…」
「俺だったら絶対出来ねぇ」
「そ、そんなこと無いですよ。私も全然できてませんし…、要領のいい轟さんならすぐ出来るようになると思います」
「いや、そういうのじゃねぇ」
「え、」


やばい、怒らせてしまっただろうか、とそう思ったときでした。


「俺は黒井がすげえなって思っただけだ。尊敬する」
「そ、尊敬…!?」
「なんだ?」
「い、いえ、…轟さんに尊敬して頂けるなんて嬉しいというか」

「…ふ、変なヤツ」


うおおえ、眩しい。
イケメンの枠組みを超え、笑うことが滅多にない轟さんが笑うと破壊力がえげつなかったです。
一瞬不整脈になったかと思いました。
多分これは私の命日と悟ったほどです。彼の破壊力は底知れません。
なんと末恐ろしい。今でも十分過ぎるほど恐ろしいのですが。

そのまま部屋の前まで送っていただき、性格までイケメン…いえ、紳士でした。


「もしよければ、お茶をお出しします」
「いや、いい。俺が好きでした事だ」
「…いえ、轟さんには図書室の一件から助けていただいてばかりなので…」
「ああ、そんな事もあったな」


そんな事もありまくりです。
とりあえずと言っては何ですが、この間お隣の高田さんにいただいたお高いお煎餅をお礼として渡しました。
私の家にはそれだけしか高価なものがありませんでしたので、轟さんに取っては安物かもしれませんが。
しかし彼はそれをしっかり受け取ってくれたので、お気に召したようでした。
ありがとうございました。と轟さんが見えなくなるまで見送ろうと外に出たとき、彼は先ほどと違い何か気まずそうに切り出しました。


「体育祭のとき、睨んじまってすまねぇ」
「…あっ、いや、べ、つに大丈夫です!す、好きなだけ睨んでください!」
「それは遠慮しとく。それだけだ」
「は、はい!…えと、ま、また火曜日に」
「また」


まさかこの為だけに来ていただいたのかと思うと胃がキリキリしてきました。
轟さんに重い荷物をもたせた挙句そのお礼がお煎餅、そして睨んだことの謝罪まで。
急激に申し訳なくなって、玄関で思わず土下座しました。
丁度そのタイミングで高田さんが来られて、焦っていらっしゃいましたが。

他にも職場体験などありましたが、また次の機会にします。
もうすぐで夏休みなので時間があるときに一度帰省しようと思います。
正確な日程が決まればまた連絡しますね。


追記 最近疲れているのかとても眠い日が続いています。
   目が重点的に疲れているので、アイマスクを着用して寝ます。


黒井 絢


ーーー


「母さーん!姉ちゃんから手紙届いてる!?」
「今読んでるわ、夏休みに時間があれば帰省するって」
「マジか!」

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