「あの子はどうしてるの?」

母親の声には心配と同時に遠慮が混じっていた。マリアと久しぶりに会った翌日、樹の家に電話してきたのだ。

「元気だったよ。忙しそうだけど」樹は淡々と答えた。

「あなたとは…話せた?」

「まあね」

「そう…」

沈黙が電話の向こうに広がった。何も言えない母親の気持ちを、樹は分かっていた。

華やか過ぎるほどに世の中へ出てしまった子を持つ保護者は思う。「あの子はもう私たちの手を離れてしまった」と。遠くから見守ることしかできない。マリアの母親もそうだった。娘を函館の叔母夫婦に預けることを決めた時から、彼女の心の扉は少しずつ閉じていったのだろう。

「ちゃんと食べてた?」母の心配は続く。

「うん。俺の作ったご飯、喜んで食べてたよ」

「そう…あなたの料理、好きだものね」

SixTONESのメンバーも同じようなことを言う。「マリア、お前にしか心開かないよな」と。優秀すぎる弟妹を持った兄たちは思う。自分たちよりも輝いている妹を、誇りに思うと同時に、少し距離を感じる。

「結局のところ、樹にしか懐かなかったよね」とタケヒロが言った時、スタジオにいた全員が頷いた。何が彼女の心をこじ開けたのか分からない。彼でなければならなかった理由とは。それは誰にも分からないことだった。

樹は時々考える。この特別な関係は何なのか。たまたま持って生まれた気性と、ほんのささいな偶然と、それらを掛け合わせた結果、こんなふうに2人の関係が続いているのだろうか。あの夜、バレエに疲れた妹の髪を切ってあげたこと。叔父の結婚式の日に泣く彼女を慰めたこと。そんな小さな出来事の積み重ねが、今の関係を作ったのかもしれない。

彼らの関係を外から見た人々は、穏やかで睦まじいきょうだい関係だと思うだろう。しかし同時に、その関係には他人の介入を許さない冷酷さがあった。マリアが樹以外の家族に心を開かないのは、もはや誰もが知るところだった。

「あなたからしか連絡取れないのよ」と母は嘆く。

「仕方ないよ」樹は答える。「忙しいんだから」

言葉の裏には、「彼女はもう誰のものでもない」という真実があった。世界中のファンのものであり、同時に誰のものでもない。ただ、樹だけは違った。彼女の中の特別な場所を占めていた。

「また日本に来るのかしら」

「わからないよ」

「あなたは…会いに行くの?」

樹は窓の外を見た。桜の木々はすでに花を散らし、新緑の季節を迎えていた。

「行くかもね」

電話を切った後、樹はマリアから送られてきたメッセージを開いた。韓国に着いたことを知らせる短い文章と、最後に添えられた一言。

『また会おう』

彼は微笑んだ。返信を打つ。

『いつでも』

彼らの関係に名前はなかった。兄妹という枠組みでは収まらない何か。恋愛でもなく、友情でもなく。強いて言えば、運命。血の繋がりによって結ばれ、離れていても引き合う力。

樹の携帯に再びメッセージが届いた。

『なんでこんなに離れていても、あなたのことを感じるんだろう』

彼は迷わず答えた。

『だって運命』

「おい、樹。今日もマリアとメールしてんの?」

リハーサルの休憩中、ジェシーが水を飲みながら尋ねた。樹は携帯から目を離さず小さく頷いた。

「マジで羨ましいよな。世界のスーパースター、マリアの実の兄貴だもんな」北斗が低い声で言った。マイクスタンドの前で、ストレッチをしながら話しかけてきた。

「あんな美人の妹がいて、しかも超売れっ子K-POPアイドルってさ」ジェシーは続ける。「俺だったら毎日SNSに投稿してるわ。『今日も妹から連絡きた〜』って」

「いやいや、そこはクールに決めるべきだろ」高地が笑いながら言った。「樹みたいに無反応が一番カッコいいんだよ」

樹は携帯をポケットにしまい、水を一口飲んだ。SixTONESのメンバーたちは、マリアの話題になると必ず樹の反応を見たがった。でも樹は滅多に反応を示さない。

「あれだけど」京本が静かに言った。「マリアちゃん、樹にしか心開かないよね。前にテレビで見た時も、他の人とはちょっと違うじゃん、接し方が」

「そうなんだよな〜」松村が頷いた。「収録の時もそうだった。樹の前だけ素になってる感じ」

「結局のところ、樹にしか懐かなかったよね」田中がステージセットを確認しながら言った。「番組スタッフも驚いてたもん。『マリアさんって、こんなに感情表現豊かな人だったんですね』って」

「何が彼女の心をこじ開けたのか分からない」京本が首を傾げた。「樹、お前何かしたの?」

樹は肩をすくめた。「別に」

「彼でなければならなかった理由とは」松村が哲学者のように語り出した。「たまたま持って生まれた気性と、ほんのささいな偶然と、それらを掛け合わせた結果、こんなふうに2人の関係が続いているのだろうか」

「お前、急に何言い出してんだよ」ジェシーが笑った。

「でも、確かに不思議だよな」高地が真剣な顔で言った。「マリアが樹だけに見せる表情って、俺たち見たことないもん」

「あの日、マリアが突然泣き出した時さ」北斗が思い出したように言った。「俺らみんな固まっちゃったけど、樹だけは自然に受け止めてたよな」

「『寂しかった』って言いながら樹の胸に飛び込んでったあの瞬間、マジで感動したわ」ジェシーが胸に手を当てた。

「いや、お前感動してなかっただろ」樹が初めて口を開いた。「『これ使える!』って言って、マネージャーに撮影指示出してたじゃねーか」

「バレてた?」ジェシーは笑いながら言った。

スタジオに笑い声が響いた。

「でもさ」京本が少し真面目な調子で話し始めた。「マリアちゃんと樹の関係って、穏やかに、睦まじく、それでいて他人の介入を許さない冷酷さを持ってるよね」

「冷酷?」樹が眉をひそめた。

「そう、冷酷」京本は頷いた。「二人きりの世界があって、そこに誰も入れないみたいな」

「そんなことないだろ」樹は否定したが、その表情には微かな動揺が見えた。

「血は争えないねぇ」松村が言った。「兄妹で似たようなオーラ出してるもん」

「そろそろ練習再開するか」樹は話題を変えようとマイクに向かった。

「あ、逃げた」高地が笑った。

「ははは、マリアの話になると照れるんだよな、この兄貴は」ジェシーが樹の肩を叩いた。

「うるせぇよ」樹は苦笑いを浮かべた。

彼らがスタンバイする中、北斗だけが樹に近づいてこっそり言った。「マリアからメール、何て書いてあったの?」

樹は一瞬躊躇ったが、小さく答えた。「『また会おう』って」

「お前、会いに行くの?」

「行くかもな」

北斗は黙って頷いた。それ以上は聞かなかった。樹とマリアの間には、他の誰も理解できない絆があることを、彼は感じていた。

「よーし、行くぞ!」ジェシーの声がスタジオに響き、メンバー全員が各ポジションにつき始めた。

樹はマイクを握りながら、ふと窓の外を見た。彼の心の中では、マリアが言ったという言葉が繰り返されていた。

「だって運命」