それは彼のみぞ知る
勝己がSNSを始めた。
つい先日出演した生放送のバラエティ番組(本人的には非常に不本意)で、『SNSやらないでどうやって生活してるんですか?』と冗談半分で尋ねた芸人さんに、それはそれは不機嫌極まりないといった様子で、『てめぇと違って暇じゃねぇんだよ』と言い放ち、その場を凍りつかせたことは、まだ記憶に新しい。
そんな彼が、不思議なことにひと月ほど前、なんの前触れもなく公式アカウントを開設したのだ。
あの勝己がSNSを始めたことに、もちろん私も、元雄英のみんなもとても驚いいていたが、さらに衝撃的だったのは、開設したアカウントを、定期的にきちんと本人が更新しているという事実だ。
確かにみみっちい、もとい、細やかなところがある彼だが、今日に至るまで最低でも一日一回、ご丁寧に写真付きで毎日投稿が続けられており、彼のファンを含めた世間の皆様が、かなりザワつくこととなった。
「ねぇ、何であんなに面倒くさがってたのに、急にSNSなんてやり始めたの?」
これで三回目になるその質問に、カウンターキッチンの向こうでお昼ご飯を作っていた勝己は、怪訝そうな顔でこちらを一瞥すると、再び視線を手元のフライパンに戻しながら、小さく舌打ちをしてみせた。
仮にも同棲中の彼女に対して、あんまりな態度だと思うのだけど、彼の塩対応にはもうすっかり慣れたものなので、ここではあえてコメントを控えることにする。
「またその話かよ。しつけぇな」
「だって理由教えてくれないんだもん」
「こないだも言ったろ。広報のヤツらがうぜぇんだよ」
「ふーん?」
わざと含みを持たせてそう返事をすると、彼は眉間のシワを深め、再び怪訝そうな顔で私の方を見た。
「…んだよ、その納得できませんってツラはよ」
「だって、勝己が広報の人の言うことなんか、素直に聞くわけない。絶対ない。有り得ない」
「おい、なかなかいい度胸してんな」
「本当は別の理由があるんでしょ」
「うっせぇな。ねぇっつってんだろ」
「えー…」
「何度も言わせんな。飯抜きにすんぞ」
「それは困る」
才能マンとは、なんでも出来るからこそ、そう呼ばれるのだ。つまり料理もとても上手い。
しかも今日のメニューは私のリクエストで、大好きな勝己大先生お手製のペペロンチーノだ。普段はそれなりに気にしがちなガーリックも、非番の日なら関係ない。
好きな食べ物を思い切り食べる。ささやかだけど、至福溢れるその時間を、奪われてなるものか。
「はぁ…お腹空いた…勝己まだー?」
「……飯抜き確定」
「すいません調子乗りました。いくらでも待ちます。だから私にも下さい」
「黙って座ってろ」
「はーい」
これ以上余計なことを言うと、本当にお昼ご飯を食べ損ねることになりそうなので、私は大人しくダイニングの椅子に座って、料理が出来上がるのを待つことにした。
鼻をくすぐる香ばしい香りにそわそわしながらキッチンを除くと、『てめぇはガキか』と鼻で笑われた。
「ほらよ」
ゴト、という鈍い音を小さく鳴らし、目の前に置かれたそれは、相変わらずプロ顔負けの出来上がりだ。一人で何でもできてしまうこの人が、なぜこんな私と一緒にいることを選んでいるのか。
それは世界の七不思議に数えてもいいほどに不可解だ。
「ん、相変わらずの美味しさ...!」
運ばれてきたペペロンチーノを早速一口含むと、香ばしい香りとピリッとした絶妙な辛さが口の中に広がる。
美味しいものを食べるということは、一番お手軽かつシンプルな幸福だ。
「私、勝己と付き合ってよかったって一番思うのは、この瞬間かもしれない」
「俺はてめぇの母ちゃんじゃねぇんだよ」
「勝己ママー、飲み物も欲しいな」
「死ね」
「ひっど」
死ねと言いながらも、私がそこから動くことはないと分かっているからか、勝己は舌打ちをしながら、冷蔵庫に入っていた瓶入りの炭酸水を取り出した。
「ちょっとそれ、私がこないだ後輩にもらったやつ!」
「あ?てめぇが飲み物よこせっつったんだろうが」
「まぁ、そうですけど」
「人に取って来させて、文句言うんじゃねぇよ。そもそも最初から自分でやれや」
「ごもっとも。勝己が作ってくれたパスタに合いそうだし、まぁ全然いいんだけどね」
「いつ飲んだって一緒だろ。そんなもん」
「いや、私が最近ハマってるからさ、良かったらどうぞって後輩がくれたんだけど、なんかちょっといいやつ?らしくて、なんか飲むのが勿体なかったというか…」
「いいこと教えてやるわ。そういうのを本末転倒っつーんだよ」
「さっきから正論の暴力がすごい」
勝己は黙ってダイニングのテーブルに炭酸水の瓶を置き、私の向かい側の椅子に腰を下ろした。そして退屈そうな顔でポケットからスマホを取り出し、テーブルの上の食卓に一度だけシャッターを切った。
本日のダイナマイト様の投稿は、どうやらお手製ランチの写真らしい。
「意外と律儀っていうか、マメだよねぇ」
「あ?」
「いや、まさか本人がちゃんとやるとは思わなくて。うちの事務所の子達も、『どうせあれは本人じゃない』って言ってる子結構いるし」
「アホ面や醤油に出来て、俺に出来ねぇわけねぇだろうが」
「ギャップ萌え狙ってんの?」
「アホか。仕事だからやってるだけだわ」
「そういう意外と真面目なところ、結構好きだよ」
「結構、だ?」
手にしていたスマホをテーブルに置き、フォークを手に持ちながら、彼はとても不服そうに私に聞き返した。どうやら"好き"の部分にかかっている副詞がお気に召さなかったようだ。
「訂正してもいいですか」
「...んだよ」
「すごく、好きだよ」
「ん」
目の前にいる勝己の表情は無愛想そのもので、笑顔でも嬉しそうでもないし、ましてや、『俺もだ』とか、『ありがとう』とか、そんな優しい言葉をかけてくれるわけでもない。
だけどその声は、いつもよりほんの少しだけ穏やかで、ほんの少しだけ優しくて。
「勝己もたいがい、私が好きだよね」
「黙れ。いいからさっさと食えや馬鹿が」
乱暴な言葉を並び立てながらも、否定はしない彼に口角が釣り上がりそうになるのを必死に抑える。
浮かれる自分を誤魔化すように、テーブルに置かれた炭酸水の蓋を開けると、しゅわ、という炭酸独特の音が鳴り、ほのかにライムの香りがした。
*
「うわ、ネットニュースになってる…!」
ただお昼ご飯の写真を載せただけでニュースになるなんて、世間から見た彼は一体どんな人間なのだろう。
いや、だいたい想像はついているけど。
「先輩、どうかしたんですか?」
突然声を上げた私に驚いたのか、私を"先輩"と呼ぶ彼は、不思議そうな顔で私に話しかけた。
「いや、同期がさ、パスタの写真あげただけでネットニュースになっててね」
「あぁ、ダイナマイトさんですか。アカウント開設された時も、反響凄かったですよね」
「まぁ、彼そういうキャラじゃないからね」
「俺の周りは、あれは影武者がやってるんじゃないかってみんな言ってますけど」
「って思うでしょ?でも全部本人がやってるのよ」
「意外とマメな方なんですね」
「あんな顔してA型だしね」
「それは…すごく意外です」
あまり表情豊かとは言えない後輩の彼が、珍しく目を丸くさせたのを見て、思わず笑みを零す。
「ふふ、そうだよね。でもあぁ見えて結構凝り性だし、手先もかなり器用なんだよ」
「なるほど…それなら、料理が上手いのも納得ですね。俺はその手のことは全然ダメで…」
「今度料理教えて貰ったら?かなりスパルタだろうけどね」
「あはは、さすがにそれは遠慮しておきますよ」
彼は肩を竦ませながらそう言うと、何かを思い出したのか、小さく声を上げた。
「そういえば、こないだの炭酸水、もう飲まれました?」
「あ、そうそう、言おうと思って忘れてた。ちょうど昨日飲んだんだけど、あれすっごい美味しかったよ」
「お口に合ったなら良かったです」
「あれって、どこで買ったやつなの?」
「あぁ、あれは実は海外にいる友人が送ってくれたものなんですよ」
「え、そうなの?私にあげちゃって良かったの?」
「はい。俺は甘くない炭酸苦手なんで」
「そう?なら良かったけど…」
「友人曰く、あちらでも滅多に手に入らないものみたいですよ」
「そ、そんな希少価値のあるものを、私は昨日一気に飲んじゃったのか…」
食べることは好きだけど、味覚に関してはお世辞にも繊細とは言い難いし、当然価値のあるものを判別できる舌は持ち合わせていない。
いつもよりはスローペースではあったものの、普通に昨日の夕方前には飲み干してしまったことが、ほんの少しだけ悔やまれる。
"良いやつ"と聞いてはいたが、まさかそこまで珍しいものだったとは。
「何ぼさっと突っ立ってんだよ。邪魔だ」
聞き覚えがあるどころか、今朝家を出る直前まで聞いていたその声がして、勢いよく振り返ると、つい先程まで私たちの話題に上がっていた人物が、仏頂面でそこに立っていた。
仕事がつまらないのか、あるいは嫌な仕事をさせられたのか、勝己は物凄く不機嫌そうな様子で、私たちを見下ろした。
「あれ…今日はここら辺のパトロールって、うちの事務所の担当だよね?」
「そのはずですけと…」
「何でこんなとこに居るの?かっちゃん」
「その呼び方やめろっつってんだろ」
「ダイナマイト様、今日はどのようなご用事で?」
「てめぇ、後で覚えてろよ…アホ面の事務所で会議。前言っただろうが」
「あぁ…そういえば…言ってたね」
「この鶏頭がよ」
「うーん、今日も悪口のキレがすごい」
「分かったらさっさと退けや」
勝己がそう吐き捨てると、後輩の彼は大人しく勝己が通れるように道を開けた。
嫌な顔ひとつすることなく少し勝己と距離を取った彼に、勝己は何故かさらに不機嫌そうな顔で、後輩の彼を睨みつけた。
「すみません」
「何に謝ってんだてめぇ」
「邪魔してしまったみたいなので」
「分かってんなら余計なことすんじゃねぇよ。殺すぞてめぇ」
「ちょっと…!」
後輩に向かって物騒な言葉を突き付けた勝己に、さすがに痺れを切らし、一言文句を言ってやろうと思ったが、彼はそのままズカズカと私の横を通り過ぎて、チャージズマの事務所がある方へと消えて行った。
「なんか、ごめん…」
お互いプロヒーロー同士、公にしている関係ではないが、恋人の粗暴な態度に申し訳ない気持ちでそう口にすると、何故か彼は肩を震わせ、必死に笑いを堪えていた。
「えっと…どうしたの?」
「あ、いや…すみません、あまりに先輩の彼氏さんの態度が露骨だったもので…」
「ごめん、今日は特に機嫌が………あれ、バレてる?」
「先輩、仮にもプロヒーローがそんな簡単にスキャンダル暴露しちゃだめですよ」
「…私って、わかりやすい?」
「いいえ。全然」
「ならどうして分かったの?」
彼は笑いを堪えていたせいか、目尻にほんの少しだけ涙を浮かべながら、ポケットからスマホを取り出して操作すると、その画面を私に見せた。
「最初は偶然かなって思ってたんですけど」
差し出されたその画面に映っていたものは、つい先程喧嘩腰で立ち去って言った人物が、昨日私の目の前で撮っていたあの写真だった。
「えっと…」
「実は俺も、彼氏さんをフォローしてまして」
「あぁ…うん。それは知ってる。本人が前に言ってた」
「この写真に写ってるのって、俺がこないだ先輩に渡したやつですよね?」
彼が指を差した箇所をよく見ると、ぼんやりとではあるが、確かにそこには彼が私にくれた、例の滅多に入らないという炭酸水の瓶が映っていた。
"映っていた"と言っても、隅の方に少しだけ映り込んでいるだけで、逆に言われなければわからないほどの些細なものだ。
「え、これで気づいたの?」
「というか、これで確信しました」
「ん...?どういうこと?」
「先輩って、いつも仕事が終わるとブレスレット付けてますよね。シルバーの」
「まぁ、そうだね」
随分と懐かしい話だが、彼が指摘するそのブレスレットは、勝己と付き合うようになってちょうど一年経った記念日にもらったものだ。
ヒーローという職業柄、仕事中にはつけられないが、今も仕事以外の時は常に身につけていて、それは意識的にと言うよりも、もはや身体の一部になっているような、そんな感覚だった。
「彼氏さんが上げてる写真のいくつかに、先輩と同じブレスレットをした人の腕が映ってるんですよ」
ほら、と言いながら、彼は一週間前に勝己が投稿していたコーヒーの写真を画面に映した。
車のドリンクホルダーに置かれたコーヒーが映っているだけの、これといって特にエンターテイメント性もない写真だが、確かに彼の言う通り、そこには私の腕が、これまた薄ぼんやりと映り込んでいた。
「…こんな細かいところ、逆によく気づいたね」
「というか、たぶんそれが彼氏さんの狙いだと思います」
「は?」
「殆どの人には分からない。逆に言えば、分かる人には分かる。例えば俺とか」
全く意味がわからない。
狙い?分かる人には分かる?
もともと年下の割に落ち着いていて、ミステリアスな雰囲気があると思っていたが、勝己と同じく頭の回転が速すぎて、他人を置き去りにしがちなタイプなのだろうか。
「ごめん、頭の悪い私にもわかるように説明してくれない…?」
「つまりあれです。牽制ですよ。俺に対する」
「牽制?」
「お前がちょっかい出してる女は俺のものだから、近づくんじゃねぇぞっていう、牽制です」
「いや...なかなかな推察だとは思うけど…さすがにそれは考えすぎじゃない…?」
勝己の性格上、気に入らないことがあれば正面から向かっていきそうなものだ。
それをわざわざこんな周りくどいやり方で、しかも不特定多数が目にするようなリスクの高い場所で、こんなことをするとは思えない。
「まぁ、そうですね。これはあくまで俺の推察なんで」
彼はそう口にして、落とすように笑いながら、でも、と再び口を開く。
「少なくとも、俺には結構なダメージでした」
サラリと紡がれたその言葉に、ようやく彼が私に言いたいことの全容を理解した。
驚いて勢いよく彼の方を見ると、その顔はいつもと同じく穏やかな様子で、でもほんの少しだけ何かを堪えているような、そんな表情だった。
ごめんなさいとか、ありがとうとか、そんなありきたりで残酷な言葉が、一瞬脳裏をよぎったものの、今はどんな言葉も違う気がして、私はそれ以上何も言うことが出来なかった。
*
「…んだよ、さっきから。チラチラ見てんじゃねぇぞ」
相変わらずの仏頂面で雑誌に目を通す彼は、今夜も飽きずに眉間にシワを寄せていた。
「勝己ってさ、実は結構乙女ちっく?」
「...ついに頭イカれたんかてめぇは」
勝己は馬鹿にしたように鼻で笑って見せると、読みかけの雑誌を閉じ、それを隣に座る私の頭に目掛けて軽く当てた。
「なんかあったんか」
そう言いながら、突然向けられた赤く鋭い視線に、心臓がドクっと大きく跳ねる。
普段は他人のことになんて興味ありません、みたいな態度なのに、意外と人の感情の機微はちゃんと捉えているところが、かっこよくてずるい。
「特に、何も…」
「すぐバレる嘘つくんじゃねぇよ」
「...後輩がさ、私のこと好きだったみたいでさ」
「は、物好きだな」
私が正直にその話をすると、勝己はほんの少しだけ肩をピクっとさせたものの、すぐに鼻で笑ってそう吐き捨てた。
「いやそれ...まぁ、それは一旦いいや。それで、他にも色々聞いて、ちょっと頭ぐるぐるしてるだけ」
「そーかよ」
「ずっと一緒にいても、わかってないことが結構あるのかもしれないなって、思った」
後輩しかり。恋人しかり。
「あー、でも明日どんな顔して会えばいいんだろう」
「知るか」
素っ気なくそう返事をすると、勝己は手にしていた雑誌を目の前のガラステーブルに放り投げてから、自分の膝を数回叩き、私の方に視線を送った。
倒れ込むように彼の膝の上に頭を置くと、勝己は両手で私の頬に触れて、ギュッと潰すようにその手に力を込めた。
「いひゃい」
「不細工が」
「ひっど。っていうか何なの?こう見えても今おセンチなんだから、甘やかしてよ」
「黙れ」
その低い声に反論しようと口を薄く開いたものの、その唇は彼によって塞がれ、私は物理的に黙らされてしまった。
特にキスをするような雰囲気ではなかったと思うのだが、それを拒む理由も特には無いので、そっと目を閉じてその行為を受け入れた。
「他の野郎のことなんか、考えてんじゃねぇ」
唇が離れ、珍しく拗ねたように口を尖らせてそう言う彼に、驚いて思わず目を見開くと、その反応が気に入らなかったのか、彼は小さく舌打ちを落とし、私の髪をぐしゃぐしゃと乱した。
聞くなら今かもしれない。
望み薄だが、ほんの少しだけ彼の心が乱れている今なら、ボロを出してくれるかも。
「ねぇ、勝己」
後輩の彼が言っていた"牽制"の真偽をそれとなく確かめようと、咄嗟に彼の名前を呼んだものの、私にそんな話術があるわけもなく、その続きの言葉は全く思い浮かばない。
「んだよ」
「...ううん。何でもない」
「何を遠慮しとんだ、きめぇ」
「さっきからひどくない?ねぇ、私彼女だよ?大事な彼女だよ?」
「......知っとるわ」
ポツリとそう呟く彼の顔色はいつも通りだが、ほんの少しだけ染まった耳に、なんだかこちらまで照れ臭くなる。
ごく稀に、不意に見せてくるそういう一面は、とても可愛くて、とてもずるい。
「何笑っとんだ」
「いや、なんかもう、どうでもいいやって」
「あ?なんだそりゃ」
彼が今隣にいて、こうして同じ時間を過ごしていて、私は彼が好きで、彼も私のことが好きだ。
それ以上に大事なことなんてない。
「どんな勝己でも大好きだよってことで」
手を上に伸ばしてその頬に触れながら、私を見下ろす彼に向かってそう言うと、勝己は眉間のシワを最大限に深くさせながら、口角を上げてにやける私の額に、その長い指を思い切り跳ねさせた。
「痛い!鬼!悪人ヅラ!」
「るせぇわ。だらしねぇ顔してっからだろ」
ぶつぶつ文句を垂れながら、じわじわと痛みが広がる額に手を当てると、少し不自由になったその視界には、きらりと光るブレスレットが映り込んだ。
−−−−−−−−−−
Twitterフォロワー企画リク作品です。
「匂わせをする爆豪くん」というリクエストで書かせていただきました。
後輩モブくんの推察の真偽がわかる日は来るのか否か。
2021.04.04
つい先日出演した生放送のバラエティ番組(本人的には非常に不本意)で、『SNSやらないでどうやって生活してるんですか?』と冗談半分で尋ねた芸人さんに、それはそれは不機嫌極まりないといった様子で、『てめぇと違って暇じゃねぇんだよ』と言い放ち、その場を凍りつかせたことは、まだ記憶に新しい。
そんな彼が、不思議なことにひと月ほど前、なんの前触れもなく公式アカウントを開設したのだ。
あの勝己がSNSを始めたことに、もちろん私も、元雄英のみんなもとても驚いいていたが、さらに衝撃的だったのは、開設したアカウントを、定期的にきちんと本人が更新しているという事実だ。
確かにみみっちい、もとい、細やかなところがある彼だが、今日に至るまで最低でも一日一回、ご丁寧に写真付きで毎日投稿が続けられており、彼のファンを含めた世間の皆様が、かなりザワつくこととなった。
「ねぇ、何であんなに面倒くさがってたのに、急にSNSなんてやり始めたの?」
これで三回目になるその質問に、カウンターキッチンの向こうでお昼ご飯を作っていた勝己は、怪訝そうな顔でこちらを一瞥すると、再び視線を手元のフライパンに戻しながら、小さく舌打ちをしてみせた。
仮にも同棲中の彼女に対して、あんまりな態度だと思うのだけど、彼の塩対応にはもうすっかり慣れたものなので、ここではあえてコメントを控えることにする。
「またその話かよ。しつけぇな」
「だって理由教えてくれないんだもん」
「こないだも言ったろ。広報のヤツらがうぜぇんだよ」
「ふーん?」
わざと含みを持たせてそう返事をすると、彼は眉間のシワを深め、再び怪訝そうな顔で私の方を見た。
「…んだよ、その納得できませんってツラはよ」
「だって、勝己が広報の人の言うことなんか、素直に聞くわけない。絶対ない。有り得ない」
「おい、なかなかいい度胸してんな」
「本当は別の理由があるんでしょ」
「うっせぇな。ねぇっつってんだろ」
「えー…」
「何度も言わせんな。飯抜きにすんぞ」
「それは困る」
才能マンとは、なんでも出来るからこそ、そう呼ばれるのだ。つまり料理もとても上手い。
しかも今日のメニューは私のリクエストで、大好きな勝己大先生お手製のペペロンチーノだ。普段はそれなりに気にしがちなガーリックも、非番の日なら関係ない。
好きな食べ物を思い切り食べる。ささやかだけど、至福溢れるその時間を、奪われてなるものか。
「はぁ…お腹空いた…勝己まだー?」
「……飯抜き確定」
「すいません調子乗りました。いくらでも待ちます。だから私にも下さい」
「黙って座ってろ」
「はーい」
これ以上余計なことを言うと、本当にお昼ご飯を食べ損ねることになりそうなので、私は大人しくダイニングの椅子に座って、料理が出来上がるのを待つことにした。
鼻をくすぐる香ばしい香りにそわそわしながらキッチンを除くと、『てめぇはガキか』と鼻で笑われた。
「ほらよ」
ゴト、という鈍い音を小さく鳴らし、目の前に置かれたそれは、相変わらずプロ顔負けの出来上がりだ。一人で何でもできてしまうこの人が、なぜこんな私と一緒にいることを選んでいるのか。
それは世界の七不思議に数えてもいいほどに不可解だ。
「ん、相変わらずの美味しさ...!」
運ばれてきたペペロンチーノを早速一口含むと、香ばしい香りとピリッとした絶妙な辛さが口の中に広がる。
美味しいものを食べるということは、一番お手軽かつシンプルな幸福だ。
「私、勝己と付き合ってよかったって一番思うのは、この瞬間かもしれない」
「俺はてめぇの母ちゃんじゃねぇんだよ」
「勝己ママー、飲み物も欲しいな」
「死ね」
「ひっど」
死ねと言いながらも、私がそこから動くことはないと分かっているからか、勝己は舌打ちをしながら、冷蔵庫に入っていた瓶入りの炭酸水を取り出した。
「ちょっとそれ、私がこないだ後輩にもらったやつ!」
「あ?てめぇが飲み物よこせっつったんだろうが」
「まぁ、そうですけど」
「人に取って来させて、文句言うんじゃねぇよ。そもそも最初から自分でやれや」
「ごもっとも。勝己が作ってくれたパスタに合いそうだし、まぁ全然いいんだけどね」
「いつ飲んだって一緒だろ。そんなもん」
「いや、私が最近ハマってるからさ、良かったらどうぞって後輩がくれたんだけど、なんかちょっといいやつ?らしくて、なんか飲むのが勿体なかったというか…」
「いいこと教えてやるわ。そういうのを本末転倒っつーんだよ」
「さっきから正論の暴力がすごい」
勝己は黙ってダイニングのテーブルに炭酸水の瓶を置き、私の向かい側の椅子に腰を下ろした。そして退屈そうな顔でポケットからスマホを取り出し、テーブルの上の食卓に一度だけシャッターを切った。
本日のダイナマイト様の投稿は、どうやらお手製ランチの写真らしい。
「意外と律儀っていうか、マメだよねぇ」
「あ?」
「いや、まさか本人がちゃんとやるとは思わなくて。うちの事務所の子達も、『どうせあれは本人じゃない』って言ってる子結構いるし」
「アホ面や醤油に出来て、俺に出来ねぇわけねぇだろうが」
「ギャップ萌え狙ってんの?」
「アホか。仕事だからやってるだけだわ」
「そういう意外と真面目なところ、結構好きだよ」
「結構、だ?」
手にしていたスマホをテーブルに置き、フォークを手に持ちながら、彼はとても不服そうに私に聞き返した。どうやら"好き"の部分にかかっている副詞がお気に召さなかったようだ。
「訂正してもいいですか」
「...んだよ」
「すごく、好きだよ」
「ん」
目の前にいる勝己の表情は無愛想そのもので、笑顔でも嬉しそうでもないし、ましてや、『俺もだ』とか、『ありがとう』とか、そんな優しい言葉をかけてくれるわけでもない。
だけどその声は、いつもよりほんの少しだけ穏やかで、ほんの少しだけ優しくて。
「勝己もたいがい、私が好きだよね」
「黙れ。いいからさっさと食えや馬鹿が」
乱暴な言葉を並び立てながらも、否定はしない彼に口角が釣り上がりそうになるのを必死に抑える。
浮かれる自分を誤魔化すように、テーブルに置かれた炭酸水の蓋を開けると、しゅわ、という炭酸独特の音が鳴り、ほのかにライムの香りがした。
*
「うわ、ネットニュースになってる…!」
ただお昼ご飯の写真を載せただけでニュースになるなんて、世間から見た彼は一体どんな人間なのだろう。
いや、だいたい想像はついているけど。
「先輩、どうかしたんですか?」
突然声を上げた私に驚いたのか、私を"先輩"と呼ぶ彼は、不思議そうな顔で私に話しかけた。
「いや、同期がさ、パスタの写真あげただけでネットニュースになっててね」
「あぁ、ダイナマイトさんですか。アカウント開設された時も、反響凄かったですよね」
「まぁ、彼そういうキャラじゃないからね」
「俺の周りは、あれは影武者がやってるんじゃないかってみんな言ってますけど」
「って思うでしょ?でも全部本人がやってるのよ」
「意外とマメな方なんですね」
「あんな顔してA型だしね」
「それは…すごく意外です」
あまり表情豊かとは言えない後輩の彼が、珍しく目を丸くさせたのを見て、思わず笑みを零す。
「ふふ、そうだよね。でもあぁ見えて結構凝り性だし、手先もかなり器用なんだよ」
「なるほど…それなら、料理が上手いのも納得ですね。俺はその手のことは全然ダメで…」
「今度料理教えて貰ったら?かなりスパルタだろうけどね」
「あはは、さすがにそれは遠慮しておきますよ」
彼は肩を竦ませながらそう言うと、何かを思い出したのか、小さく声を上げた。
「そういえば、こないだの炭酸水、もう飲まれました?」
「あ、そうそう、言おうと思って忘れてた。ちょうど昨日飲んだんだけど、あれすっごい美味しかったよ」
「お口に合ったなら良かったです」
「あれって、どこで買ったやつなの?」
「あぁ、あれは実は海外にいる友人が送ってくれたものなんですよ」
「え、そうなの?私にあげちゃって良かったの?」
「はい。俺は甘くない炭酸苦手なんで」
「そう?なら良かったけど…」
「友人曰く、あちらでも滅多に手に入らないものみたいですよ」
「そ、そんな希少価値のあるものを、私は昨日一気に飲んじゃったのか…」
食べることは好きだけど、味覚に関してはお世辞にも繊細とは言い難いし、当然価値のあるものを判別できる舌は持ち合わせていない。
いつもよりはスローペースではあったものの、普通に昨日の夕方前には飲み干してしまったことが、ほんの少しだけ悔やまれる。
"良いやつ"と聞いてはいたが、まさかそこまで珍しいものだったとは。
「何ぼさっと突っ立ってんだよ。邪魔だ」
聞き覚えがあるどころか、今朝家を出る直前まで聞いていたその声がして、勢いよく振り返ると、つい先程まで私たちの話題に上がっていた人物が、仏頂面でそこに立っていた。
仕事がつまらないのか、あるいは嫌な仕事をさせられたのか、勝己は物凄く不機嫌そうな様子で、私たちを見下ろした。
「あれ…今日はここら辺のパトロールって、うちの事務所の担当だよね?」
「そのはずですけと…」
「何でこんなとこに居るの?かっちゃん」
「その呼び方やめろっつってんだろ」
「ダイナマイト様、今日はどのようなご用事で?」
「てめぇ、後で覚えてろよ…アホ面の事務所で会議。前言っただろうが」
「あぁ…そういえば…言ってたね」
「この鶏頭がよ」
「うーん、今日も悪口のキレがすごい」
「分かったらさっさと退けや」
勝己がそう吐き捨てると、後輩の彼は大人しく勝己が通れるように道を開けた。
嫌な顔ひとつすることなく少し勝己と距離を取った彼に、勝己は何故かさらに不機嫌そうな顔で、後輩の彼を睨みつけた。
「すみません」
「何に謝ってんだてめぇ」
「邪魔してしまったみたいなので」
「分かってんなら余計なことすんじゃねぇよ。殺すぞてめぇ」
「ちょっと…!」
後輩に向かって物騒な言葉を突き付けた勝己に、さすがに痺れを切らし、一言文句を言ってやろうと思ったが、彼はそのままズカズカと私の横を通り過ぎて、チャージズマの事務所がある方へと消えて行った。
「なんか、ごめん…」
お互いプロヒーロー同士、公にしている関係ではないが、恋人の粗暴な態度に申し訳ない気持ちでそう口にすると、何故か彼は肩を震わせ、必死に笑いを堪えていた。
「えっと…どうしたの?」
「あ、いや…すみません、あまりに先輩の彼氏さんの態度が露骨だったもので…」
「ごめん、今日は特に機嫌が………あれ、バレてる?」
「先輩、仮にもプロヒーローがそんな簡単にスキャンダル暴露しちゃだめですよ」
「…私って、わかりやすい?」
「いいえ。全然」
「ならどうして分かったの?」
彼は笑いを堪えていたせいか、目尻にほんの少しだけ涙を浮かべながら、ポケットからスマホを取り出して操作すると、その画面を私に見せた。
「最初は偶然かなって思ってたんですけど」
差し出されたその画面に映っていたものは、つい先程喧嘩腰で立ち去って言った人物が、昨日私の目の前で撮っていたあの写真だった。
「えっと…」
「実は俺も、彼氏さんをフォローしてまして」
「あぁ…うん。それは知ってる。本人が前に言ってた」
「この写真に写ってるのって、俺がこないだ先輩に渡したやつですよね?」
彼が指を差した箇所をよく見ると、ぼんやりとではあるが、確かにそこには彼が私にくれた、例の滅多に入らないという炭酸水の瓶が映っていた。
"映っていた"と言っても、隅の方に少しだけ映り込んでいるだけで、逆に言われなければわからないほどの些細なものだ。
「え、これで気づいたの?」
「というか、これで確信しました」
「ん...?どういうこと?」
「先輩って、いつも仕事が終わるとブレスレット付けてますよね。シルバーの」
「まぁ、そうだね」
随分と懐かしい話だが、彼が指摘するそのブレスレットは、勝己と付き合うようになってちょうど一年経った記念日にもらったものだ。
ヒーローという職業柄、仕事中にはつけられないが、今も仕事以外の時は常に身につけていて、それは意識的にと言うよりも、もはや身体の一部になっているような、そんな感覚だった。
「彼氏さんが上げてる写真のいくつかに、先輩と同じブレスレットをした人の腕が映ってるんですよ」
ほら、と言いながら、彼は一週間前に勝己が投稿していたコーヒーの写真を画面に映した。
車のドリンクホルダーに置かれたコーヒーが映っているだけの、これといって特にエンターテイメント性もない写真だが、確かに彼の言う通り、そこには私の腕が、これまた薄ぼんやりと映り込んでいた。
「…こんな細かいところ、逆によく気づいたね」
「というか、たぶんそれが彼氏さんの狙いだと思います」
「は?」
「殆どの人には分からない。逆に言えば、分かる人には分かる。例えば俺とか」
全く意味がわからない。
狙い?分かる人には分かる?
もともと年下の割に落ち着いていて、ミステリアスな雰囲気があると思っていたが、勝己と同じく頭の回転が速すぎて、他人を置き去りにしがちなタイプなのだろうか。
「ごめん、頭の悪い私にもわかるように説明してくれない…?」
「つまりあれです。牽制ですよ。俺に対する」
「牽制?」
「お前がちょっかい出してる女は俺のものだから、近づくんじゃねぇぞっていう、牽制です」
「いや...なかなかな推察だとは思うけど…さすがにそれは考えすぎじゃない…?」
勝己の性格上、気に入らないことがあれば正面から向かっていきそうなものだ。
それをわざわざこんな周りくどいやり方で、しかも不特定多数が目にするようなリスクの高い場所で、こんなことをするとは思えない。
「まぁ、そうですね。これはあくまで俺の推察なんで」
彼はそう口にして、落とすように笑いながら、でも、と再び口を開く。
「少なくとも、俺には結構なダメージでした」
サラリと紡がれたその言葉に、ようやく彼が私に言いたいことの全容を理解した。
驚いて勢いよく彼の方を見ると、その顔はいつもと同じく穏やかな様子で、でもほんの少しだけ何かを堪えているような、そんな表情だった。
ごめんなさいとか、ありがとうとか、そんなありきたりで残酷な言葉が、一瞬脳裏をよぎったものの、今はどんな言葉も違う気がして、私はそれ以上何も言うことが出来なかった。
*
「…んだよ、さっきから。チラチラ見てんじゃねぇぞ」
相変わらずの仏頂面で雑誌に目を通す彼は、今夜も飽きずに眉間にシワを寄せていた。
「勝己ってさ、実は結構乙女ちっく?」
「...ついに頭イカれたんかてめぇは」
勝己は馬鹿にしたように鼻で笑って見せると、読みかけの雑誌を閉じ、それを隣に座る私の頭に目掛けて軽く当てた。
「なんかあったんか」
そう言いながら、突然向けられた赤く鋭い視線に、心臓がドクっと大きく跳ねる。
普段は他人のことになんて興味ありません、みたいな態度なのに、意外と人の感情の機微はちゃんと捉えているところが、かっこよくてずるい。
「特に、何も…」
「すぐバレる嘘つくんじゃねぇよ」
「...後輩がさ、私のこと好きだったみたいでさ」
「は、物好きだな」
私が正直にその話をすると、勝己はほんの少しだけ肩をピクっとさせたものの、すぐに鼻で笑ってそう吐き捨てた。
「いやそれ...まぁ、それは一旦いいや。それで、他にも色々聞いて、ちょっと頭ぐるぐるしてるだけ」
「そーかよ」
「ずっと一緒にいても、わかってないことが結構あるのかもしれないなって、思った」
後輩しかり。恋人しかり。
「あー、でも明日どんな顔して会えばいいんだろう」
「知るか」
素っ気なくそう返事をすると、勝己は手にしていた雑誌を目の前のガラステーブルに放り投げてから、自分の膝を数回叩き、私の方に視線を送った。
倒れ込むように彼の膝の上に頭を置くと、勝己は両手で私の頬に触れて、ギュッと潰すようにその手に力を込めた。
「いひゃい」
「不細工が」
「ひっど。っていうか何なの?こう見えても今おセンチなんだから、甘やかしてよ」
「黙れ」
その低い声に反論しようと口を薄く開いたものの、その唇は彼によって塞がれ、私は物理的に黙らされてしまった。
特にキスをするような雰囲気ではなかったと思うのだが、それを拒む理由も特には無いので、そっと目を閉じてその行為を受け入れた。
「他の野郎のことなんか、考えてんじゃねぇ」
唇が離れ、珍しく拗ねたように口を尖らせてそう言う彼に、驚いて思わず目を見開くと、その反応が気に入らなかったのか、彼は小さく舌打ちを落とし、私の髪をぐしゃぐしゃと乱した。
聞くなら今かもしれない。
望み薄だが、ほんの少しだけ彼の心が乱れている今なら、ボロを出してくれるかも。
「ねぇ、勝己」
後輩の彼が言っていた"牽制"の真偽をそれとなく確かめようと、咄嗟に彼の名前を呼んだものの、私にそんな話術があるわけもなく、その続きの言葉は全く思い浮かばない。
「んだよ」
「...ううん。何でもない」
「何を遠慮しとんだ、きめぇ」
「さっきからひどくない?ねぇ、私彼女だよ?大事な彼女だよ?」
「......知っとるわ」
ポツリとそう呟く彼の顔色はいつも通りだが、ほんの少しだけ染まった耳に、なんだかこちらまで照れ臭くなる。
ごく稀に、不意に見せてくるそういう一面は、とても可愛くて、とてもずるい。
「何笑っとんだ」
「いや、なんかもう、どうでもいいやって」
「あ?なんだそりゃ」
彼が今隣にいて、こうして同じ時間を過ごしていて、私は彼が好きで、彼も私のことが好きだ。
それ以上に大事なことなんてない。
「どんな勝己でも大好きだよってことで」
手を上に伸ばしてその頬に触れながら、私を見下ろす彼に向かってそう言うと、勝己は眉間のシワを最大限に深くさせながら、口角を上げてにやける私の額に、その長い指を思い切り跳ねさせた。
「痛い!鬼!悪人ヅラ!」
「るせぇわ。だらしねぇ顔してっからだろ」
ぶつぶつ文句を垂れながら、じわじわと痛みが広がる額に手を当てると、少し不自由になったその視界には、きらりと光るブレスレットが映り込んだ。
−−−−−−−−−−
Twitterフォロワー企画リク作品です。
「匂わせをする爆豪くん」というリクエストで書かせていただきました。
後輩モブくんの推察の真偽がわかる日は来るのか否か。
2021.04.04