15 そして物語は終わる


「ねぇ、あの二人だよね?」
「すげぇよな...文化祭の劇でキスとか...」
「ヒーロー科やっぱすげぇよな」

劇中で私たちの間に起こったことは、お昼ご飯の時間には既に学校中に知れ渡ることとなった。行く先々で色んな人達が、私たちを見て同じような言葉を並べた。

「あぁ...視線が...視線が痛い」
「そうか?」
「轟くん、ハート強すぎるよ...!」

誰も予想だしなかった本番当日のとんでもないアドリブに、クラスのみんなは舞台袖であたふたしていたが、ナレーションを担当していた梅雨ちゃんが、事前に考えていたかのようにサラッとそのままシンデレラが王子と結婚し、幸せに暮らしたというエンディングに変更する形で、何とかシンデレラの劇は閉幕となったのだった。






『き、君たちは...何をやっているんだ全く!』
『このバカップルがよ!!羨ましいんだよチクショーめ!!』
『飯田ぁ、顔赤くして言っても迫力ねぇぞ〜』
『上鳴のはただの僻みだな』

冷静になってみると、私と轟くんは本番中にとんでもないことをしてしまったわけだから、みんなが怒るのも無理はない。そう思っていたのだけど。

『あの、ホントに...ごめんなさい...』
『百歩譲ってみょうじはいい!轟!てめぇだよ!!急にアドリブ入れたかと思えばやりたい放題しちゃってもう!!』
『...悪ぃ』
『お前悪いと思ってねーだろ!?』
『...みょうじがすげぇ綺麗で、我慢できなかった。悪ぃ』
『しれっと惚気てんじゃねぇよ!!』
『まぁまぁ、いーじゃん!二人のお陰で演劇部門最優秀取れたし、結果オーライってことで!』
『いや、しかしだなぁ...』
『感慨深いわ...』
『今日はお赤飯やね!』
『まぁ何にせよ、おめでとうお二人さん!!』

あんなことになってしまったのに、クラスのみんなからはほとんど怒られることはなく、それどころか、みんな口々に祝福してくれて、嬉しいけど照れくさい、何ともくすぐったい気持ちになった。




「クラスのみんなには本当に感謝だね...」
「そうだな」

そう言いながら、轟くんが私の手を握る。

「あの...」
「もういいだろ?握っていいかって聞かなくても」
「う、うん...!」

そうだよね。もういいんだ。理由とかそんなもの、もう気にする必要は無いんだ。




「あらま、噂のお二人じゃん」

後ろから声がして振り返ると、鈴原くんがたこ焼きを食べながら立っていた。

「......まだこいつに何か用かよ」

鈴原くんの姿を見るなり、轟くんが私を隠すようにして前に立つ。

「そんな顔すんなよ、怖いねー。あ、観てたよ俺も、A組の劇。君らがめっちゃラブラブで目も当てられなかったですけど」
「...いや、あの、その...」

答えるのを戸惑っていると、鈴原くんは物凄く不機嫌そうな轟くんに視線を向ける。

「まぁ、こうなるんだろうなぁって思ってたけど、まさか劇の本番中にそうなるとは思わないよなぁ」
「...お前に関係ねぇだろ」
「それこないだの仕返し?根に持つねー。大丈夫だって。彼氏持ちにはちょっかいかけないから」
「金輪際二度とこいつに近づくんじゃねぇよ」
「怖っ...!ちょっとみょうじさん、こんなおっかないのが彼氏でいいの?」

こんな彼氏でいいの?

そんなの、決まっている。

「...いい。好きだから」

私がそう言うと、二人はポカンとした顔で私を見る。
私は轟くんがすごく好きで、それを言葉に出すことをもう躊躇う必要はなくて、だからもうセーブするのはやめる。轟くんがくれる気持ちも言葉も、全部。同じ分だけ、それ以上に轟くんに伝えたい。

「ふーん。言うね...あ、でも。もし別れちゃったら俺んとこ来なね。待ってるよ」
「...ぶっ飛ばすぞ」
「冗談だって」
「もういいだろ。俺らは行くから」
「え、ちょ...っ、轟くん...!?」

私の手を握ったまま、鈴原くんを残して轟くんが歩き出す。ごめんね、と小さく言うと、鈴原くんは手をひらひらさせて、"お幸せに"と笑って言った。







「あの轟くん...今日は司書の先生いないのに、何で図書室に来たの?」
「二人っきりになりてぇから」
「え!?」
「色んな奴らにジロジロ見られて、鬱陶しい」
「あぁ...そういう...」
「お前のこと見られるのも、気に入らねぇ」

腰に腕を回されて、彼の方へ引き寄せられる。さっきのダンスでもこのくらい近かったけど、いつもの制服でこうして触れ合うとあぁ恋人になったんだな、と改めて実感させられる。

「みょうじ、好きだ。絶対誰にも渡さねぇ」
「と...」

私が彼の名前を呼ぶ前に、その口は彼の独占欲を纏ったそれによって塞がれる。離れては触れ、また離れては触れ、何度も何度も確かめるようにキスをする。彼の手が、腕が、視線が、お前を逃さないと言っている。誰もいない図書室に、互いの唇が離れる際のリップ音だけが響いて、脳が腫れるような感覚に支配されていく。こんなのずっと続けられたら、どうにかなってしまう。

「ん...ね...と、轟くん...そろそろみんなのとこ戻らないと...」
「もっと」
「え、と、でも...ね?打ち上げあるし...」
「嫌だ」

轟くんの肩を両手で押して、腕の中から逃れようとすると、彼は腕の力を強めてもう一度自分の腕に私を閉じ込める。

「轟、くん...」
「逃がさねぇぞ、お姫様」

そう言うと、轟くんは私の頬に触れて、また一つキスを落とす。クラスのみんなごめんなさい、どうやら打ち上げには行けそうにありません。


ガラスの靴などアテにしないし、あなたは私を逃がさない。
ちょっと強引で、でも優しい、私だけの"王子様"。


HAPPY END

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午前0時のシンデレラをお読みいただきましてありがとうございました。
王子様な轟くんを書きたくて始めたこのお話ですが、皆様お楽しみいただけましたなら幸いです。
本編はこちらにて完結ですが、今後番外編や後日談なども書いていく予定ですので、ぜひそちらもお読みいただければ嬉しいです。
すったもんだありましたが、最後はめでたしめでたしです。
独占欲最強な彼氏轟くんとそれさえもかっこいい好きって思っちゃう彼女。
バカップルめ。お幸せに。
2020.10.14

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