溜息と書いて愛と詠もう

「影山茂夫は私のことを、好き。嫌い。好き。嫌い。好き……やったわ!茂夫は私のことを好きで好きでたまらないほど愛しているんだわ!」

なんて、好きのレベルが上がりすぎていることを気にもとめず、大声で叫ぶ女生徒がいた。花占いに興じる乙女らしい部分を覆すほどの、自信家な性格に影山茂夫の弟、影山律は呆れるしかなかった。

「そんなに大声で言えるくらい自信があるなら、さっさと告白でもすればいいのに……兄さんは喜ぶと思うよ」
それはモテたいと思っている兄を思うがための発言だった。いや、毎度相談されることを面倒くさくなってきての発言でもあった。

「……無理よ。茂夫は昔っから私のことなんて、ジャガイモ程度にしか思ってないもの」
自信家のフリをして、態と好きが必ず出る花占いをやっても、本心では自信など毛ほどもない。茂夫にとっての女子の幼馴染はツボミだけだし、好きな女子もツボミだけなのだ。茂夫を前にすると緊張して、話を振ることも出来ない彼女のことを認識しなくなっていくのも無理はなかった。彼女は一応幼馴染の部類に入る。しかし馴染みでない。出会った時から恋愛感情を持ってしまったため、極度の口下手から交流が存在しなかったのだ。

「まずは、話しかけれるようになったらいいんじゃないかな。逃げの姿勢も、そろそろ辞めた方が……」
「わかってるわよ…そういうことで律を呼んだの。まずは三人の会話から初めて、程よく続けることを目標にしましょ。
ジャガイモから抜け出すのよ!」

律には、また面倒なことを押し付けられてしまったか…と溜息が出そうな心と、彼女との時間を喜ぶ心があった。
 そう、彼も難しい恋愛をしている者なのだ。

「僕もジャガイモから抜け出せるかな」
「何言ってるのよ。茂夫が律のことジャガイモなんて思ってるわけないじゃない」

 今日もまた、律の溜息は止むことを知らない。
 

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悲劇のヒロイン症候群