*名前変換ない、モブの話
*2017年設定





久しぶりに早い時間に帰ってこれた。ここ数日残業続きで疲れきっているから、なかなか自炊しようにもできない日が続いていてる。早く帰れたし今日こそはと思ってスーパーに寄ったけれど、結局出来合いのお惣菜と気休め程度に野菜サラダを手に取って帰ってきた。

「あ、代表の試合やってる」

テレビをザッピングしているとサッカーの試合をやっていた。中学の頃に仲が良かった友だちの好きな人がサッカー部にいたから、試合の度に連れ回されてたけど、卒業してからはサッカーに限らずスポーツはどれもオリンピックやW杯なんかで観るくらいで、普段は進んで観ることないから新鮮だ。
まだ後半がはじまって10分くらい過ぎたとこみたいだけど、試合はオーストラリアを相手に1対2で今のところ負けている。オーストラリアの選手はみんな日本人より体格がガッチリしていてそれだけで強そうに見えるけど、実際強いんだろうか。まあ、今は1点差で負けちゃってるんだけど。
ご飯を食べつつ試合を見続けていると実況の「ゴール!!」という喜びに満ちた声で日本側に得点が入ったことを知った。正直ゴール前でごちゃごちゃ団子状態で何が起きたかよく分からなかった。実況に耳を傾ける。

『今のは天城のゴールですね』
『いやー相変わらずすごい威力ですね。キーパー反応してもなかなか止めきれません!!』
「天城……」

どアップになった顔にどこか既視感を覚えた。何度か代表に選ばれてるのかな。気になってスマホで名前を調べるとすぐに出てきた。
天城燎一、1984年生まれ。あ、タメだ。東京出身だけどドイツ人とのハーフ、ふむふむ。確かに日本人にしてはなかなかゴツい。色素も薄めだ。経歴は国分二中、ドイツのチーム──…えっ!?国分二中?!!

「同じ学校の同級生じゃん!えー、すごっ…」

卒業して15年以上経つ今となっては中学の同級生なんてほんとに仲良い一部としか関わりないから、この天城くんなんて他人に等しいけど急に親近感が湧いてきた。天城くんがゴールに向かってシュートする度にだんだん昔のことを思い出してきた。
あの頃は目つきが鋭くて、いつもピリピリしていた気がする。あと、中二の冬休みだか春休みだかを挟んでいつの間にか転校していたことも──…
なんとなく流し見していた試合も、気がつけば集中して観ていた。追加点が入った時には思わず声を上げて喜んでしまった。そしてそのまま日本の勝ちとなった。

試合後のインタビューは代表の監督、最初に得点していた原口選手に続いて、なんと天城くんも受けていた。「今日は息子が観にきていたので、いいところを見せれてよかったです」そう微笑む天城くんは優しそうないいお父さんの顔をしている。

「なんか同級生が世界で活躍してるのみると誇らしいなー」

明日会社で言ってみよう。実は天城遼一選手と同級生なんだよ、って。

(20210530)

title by 箱庭「溺れる鯨」

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