「七篠さんサッカー好きなの?」
「え?」

急に声をかけられて目を瞬く。若菜くんのことはあまりよく知らない。この1年間同じクラスだったけど、目が合えば挨拶をしたり休み時間にちょっと話すことはあっても、遊びに行ったりするような仲ではない。いわゆるクラスメイトとしての最低限の付き合いだ。
若菜くんは誰とでもワイワイ騒げるクラスのヒエラルキーのトップに位置する陽キャだが、あいにく私は中位か下位に位置する存在だ。いじめられたりはしないけど、目立つ存在でもない、極々フツーの女子生徒。それに対して若菜くんといえば、先にも述べた通りクラスの中心的存在で、彼の周りは笑いが絶えない。どこかのサッカーユースに所属していて、たまに試合だか何だかで学校を休むことがある。高校生が平日に学校を休んで試合をするくらいだからそれなりに上手いチームの所属だと思うけど、あいにく根っからのパンテサポの私はパンテーラ府中の下部チームの試合を見ることはあっても、他のユースチームの試合を見ることは高円宮杯の決勝くらいしかないので、どんなポジションをしていてどれくらいの立ち位置なのかは残念ながら知らない。
なんてうだうだ考えてると若菜くんは聞こえてないと思ったのか、もう一度「サッカー好き?」と聞いてきた。そんなの家族ぐるみでパンテサポの私には愚問である。

「好きって一言で言い表せれないくらいには好き」
「めっちゃ好きじゃん!」

つい食い気味に答えてしまって若菜くんはけらけら大げさなくらい笑ってしまった。「若菜うるせー」って声が別のクラスメイトから飛んでくる。

「てか、なんで急にそんなこと聞いてきたの?」

何の前触れもなく聞かれてこっちは驚きしかない。別にサッカー好きなことは隠してないし、仲良い友だちは私がサッカー好きなことを知っている。正に昨日家族で試合を観てきたし、なんだったら我らがパンテーラ府中が念願のJ1昇格を果たすところをこの目で見届けてきた。それも夢のスコアで。嬉しすぎてお母さんとガチ泣きした。試合後にあったシーズン終了のセレモニーも最高に幸せだった。ちゃっかりハットトリック決めた将大と結婚したい。……そういえば若菜くんは太い眉毛の感じとか顔の雰囲気がちょっと将大に似てる気がする。体格は将大の方がずっとガッシリしてるけど。

「昨日府中の試合俺も観に行ってて見かけたから」
「え!府中スタいたの?!若菜くんもパンテサポなのっ!!?」
「あ、いや…」
「声かけてくれたらよかったのに〜!!」
「ほら七篠さん家族と来てたみたいだし、俺もツレといて」
「そっか、お友だちに悪いよね。あーでも、どうせならもっと早く知りたかった…!!」

こんな身近なところにパンテサポがいるなんて…!

「若菜くんとは仲良くなれそう!これからもよろしくね!」
「お、おう!」

誰かが冷やかすように口笛を鳴らした。普段だったら恥ずかしくて嫌だけど、今はちっとも気にならない。だってクラスでパンテサポ仲間見つけたし!最っ高!!
なんて舞い上がってた私は気づかなかった。若菜くんが「いや、別にパンテサポではないんだけど…」なんて苦笑いしてるなんて。

雪解けの春


(20201218)

高校生をイメージしてます。
仙台並びに福岡サポーターのみなさまJ1昇格おめでとうございます!

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High Five!