*名前変換なし
*「幼魚と逆罰」の後の話



新しくバイトを探そうと思って大学のカフェテリアで駅で適当にとってきたバイト求人誌を広げてると、「あれ、バイト探してるの?」なんてキャンパス内では久しぶりに会うサークルの友だちに声をかけられた。

「映画館のバイトは?高校の時からしてるって言ってなかったっけ?」
「こないだ事件があったから、今閉鎖中なんだよね…」
「事件って?」
「私は授業あったし見てないんだけど、なんか変死体が見つかったらしくて」
「えっ!変死体っ!!?何それヤバいじゃん!!」
「そう!ヤバいんだよ〜!!」

私のバイト先である映画館は90席弱のメインシアターと40席弱のサブシアターの2つのシアターを保有する、いわゆる単館映画館である。上映作品は大手シネコンでは上映しないようなコアな作品や、古い映画もこれまた館長の趣味でマニアックな作品やB級映画を好んで上映していた。企画上映はあまり大衆受けしないような少々マニアックなラインナップが多いけれど、その分固定ファンは多い。私もそのうちの一人で、もともとはこの映画館に通う客の一人だった。中学生の時にたまたま観たかった映画をここでしかやってなくて、手書きの上映案内のラインナップに興味がそそられて以来お小遣いの許す限り足繋く通っていた。高校生活にある程度慣れてきたときに受付でバイトの募集をしてないか聞いてみれば、あれよあれよとバイトの採用がきまったのだ。都内の最低賃金ではあるけれど、館長をはじめバイト先の人はみんないい人だし今まで知らなかった面白い作品に出会えるのも楽しい。たまに施設点検日なんて名目で休館するけれど、消防点検など必要な施設点検を終えたあとはスタッフみんなで映画鑑賞会をする日でもあった。

そんな私の憩いの場も先週の月曜日の事件で一変する。その日私は授業があったからバイトは休みだったけど、夜に館長から珍しく電話があった。電話口の館長はかなり参っていたようで要領を得ない説明だった。なんとか理解した内容は、映画館で変死体が見つかったこと、当面の間映画館は休館すること、の2点だった。
その日にシフトに入っていた仲の良い先輩にメッセージを送っても、普段は遅くても次の日には返事をくれるのに、数日経っても返事がなくてかなり心配した。1週間ほど経ってから第一発見者はその先輩であり、すっかり神経をすり減らして塞ぎ込んでいたことがわかった。

「じゃああれだね、誰くんだっけ?よく来る男の子とも会えないんだ」
「吉野くん?連絡先も知らないし、そうなるね〜」

吉野くんはうちの映画館によく来る男の子だ。いつから通ってるのかは知らないけれど、私がバイトをするようになった頃には既に常連だった。今年高校生に上がったからちょうど3つ離れている。中学生のある時、彼が館内で生徒手帳を忘れていったのがお喋りをするきっかけとなった。
うちの映画館に来るだけあって映画の造詣に深いし、ホラー映画が好きという好みも合った。いくつか教えてくれたおすすめ映画はどれもおもしろかった。上映前後のちょっとした時間にお話するのは密かな楽しみだった。直接聞いたわけじゃないけれど、どうも高校に上がってから不登校気味らしく、平日の昼間に訪れることもある。友だちと言うにはまだ距離があるけれど、ただのバイトと客で片づけられない程度には親しかった。

「映画趣味会う男の子と会えなくて残念だね」
「うん、」

映画館が無事に再開したら会えるといいな。そしたら、またお互いのおすすめを教え合うんだ。それから連絡先だって聞いてみよう。

恋は不在のまま


(20210226)

title by サンタナインの街角で

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