プロポーズがうまくいかない

目に入った時計は夜明け前と言うには早い深夜2:20。寝苦しくてアラームよりもだいぶ早く目が覚めた。背中はじっとり寝汗かいてるし上手く寝返りが打てんくて、金縛り?オバケ的なやつ??ってちょっとビビったけど、なんべんか瞬きして自分の体に人の腕が回ってるから動けへんって気づいた。

「帰ってきとってんや」

重たい腕を持ち上げながら侑に向き直る。試合やらなんやらでしばらく振りの侑は、ちょっと口を開けた状態でぐっすり寝とった。起きてる時は生意気というか、性格の悪さが全面に出てんのに、寝てる時は害のない子どもみたいな顔しとってでかい図体の割に可愛く思える。

仕事上、朝4:00には起きて夜が明け切るより前に家を出るのが習慣になっとって、小学生もびっくりな夜9:00頃には就寝する生活がここ半年の習慣やった。電話とかアラームとか地震とか何かしらきっかけがあれば起きれるねんけど、寝入ってから帰ってきたらしい侑がベッドに入ってきたのには全然気づけへんかった。なんやろ疲れとんのかな。これ下手しい泥棒とか入られても気づかんまま死ぬやつやな。なんて笑い事やないことが頭をよぎる。

「おかえり」

声をかけたところで、寝てる侑が起きる様子はない。まだだいぶ早いし、二度寝しょっかな。胸に顔を寄せて息をすると侑のにおいがした。



アラームの音で改めて起きて、止めようと手を伸ばしてみたけど、一向に届く気配はない。早よ止めな昨日遅かったっぽい侑も目ぇ覚ましてまう。二度寝する前と同じように重たい腕をどけようとしたけど、びくともせぇへん。それどころか徐々に力が込もってくる。

「侑ー、起きてるんやったら放してよ。アラーム止められへんやん」
「お姫様は王子様のキスで目ぇ覚ますねん」
「こんなでかいお姫様がおってたまるか」

チラッと昔やった劇のプリンセスアツムが頭をよぎったけど、キス待ち顔の侑にイラッとして普通に突っ込んでしもた。

「………」
「え、なに?どしたん?」

さっきまで、このまま絞め殺されるんちゃうかな?!ってくらい締め付けられとったのに、急に腕の力は緩んで何かを噛み締めるように黙り込んどる。腕をどけて頬をゆるく叩く。今度はキリッとキメ顔を作ってえらいこっちの顔を覗き込んできた。なんやねん。どないしてん。

「小町結婚しよ」
「は?嫌や。なんやねん急に。ムードも何もないやっちゃな」

うちの言う事は聞こえてへんみたいに「ほんまはちゅーして欲しかってんけど」って言いもってチュッと音を立ててキスをしてくる。ええ〜何この子酔ってんのかな〜???それか寝惚けてる??普段起きてる時はしょうもない口喧嘩をしょっちゅうしとんのに、珍しくえらいベタベタしてくる。なんやろたかだか1、2週間会えへんで寂しかったんかな。たまにこういうとこ見ると案外かわいいとこもあるやんって絆されるからかなんなぁ…。

「小町ちゃんの突っ込みにキュンてきたわ」
「そっちかい!てか、そんな大した突っ込みしてへんやろ」
「そんなことないわ!ジャッカルでボケても流れるし、突っ込んでも響けへんし……」

侑は遠い目をしながらぼやいた。確かに従兄を筆頭によく知るメンバーは揃いも揃って天然な気がする。あ、臣くんはちゃうな。あの人ボケとかツッコミとかそういうの気にせん…というか、んなもん知るかボケってタイプ。めちゃくちゃ親しいわけやないけど、普段聞いてる話と見たときの印象やとそんな感じ。我ながら偏見がひどい。
ともかく、中高生の時の侑はわりとボケる側やったけど、ボケボケだらけの周りで突っ込まざるを得んくなってるんやろなぁ。関西人の宿命やな。

「つーか結婚嫌ってなんなん?ここまできたらするやろが!」
「そらいつかはするかもせんけど、あんなん普通にボケと思うやん!高校生がアイドルと結婚する!って言うのと同じレベルやん!」
「ボケちゃうわ!!!」

さっきまでふにゃふにゃ笑てたのに急にキレ出す侑は朝から忙しいやっちゃな。でも、別に高級ホテルでやれとも、バラの花100本持ってこいとも言わんけど、あんな冗談か本気かもよぉわからんのよりもうちょっとちゃんとプロポーズされたい。そら世の中にはさらってして欲しい人もおると思うけど、侑はそれくらい分かりやすくないとボケぶっ込んできたんかな?ってなる。さっきも漫才の相方見つけてました!みたいな入り方やったし。
眉間に寄ったシワを親指でほぐすと鬱陶しそうに手を払われた。冷たいやっちゃな!なんやねん!とはいえ、うちも悪かったとこなくはないし、ずっと機嫌損ねられるんも嫌やからご機嫌とりしよかな!

「侑くーん、今度はちゃんとええ感じにプロポーズしてなぁ〜」

語尾にハートマーク付ける勢いで甘えた声を出して、渾身のぶりっ子顔で上目遣いをする。つき合いの長さから、この顔の有用性はよく分かっている。まぁお互い顔が好きで始まってるからその逆も然り、やねんけど。でも、グッと押し黙る侑にやったったで!って思う。

「おっまえ…!その顔かわいいからやめろや!!」
「かわいいならええやん!ってかお前って言うな!!」

また別のケンカが勃発しそうなところにアラームが鳴って、ふと我に返った。スヌーズ様々!

「あかんあかん、仕事行かな仕事」
「小町まだ話は終わってへんで!」
「やって仕事やもん」

ベッドから出ようとすると腕を掴んでくる。なんなん今日めっちゃ絡んでくるやん!どないしてん!!でも、口ではああ言うものの流石に仕事の邪魔はできへんと思ってるらしくて、掴まれてない方の腕で解くとあっさりと外れた。あかんあかんご機嫌とりご機嫌とり。

「早いしまだ寝ときよ」

ベッドから出ておでこにちょっとキスして、布団をかけ直してやる。やってることおかんやないか。
侑はまだ怒ってる体でおるらしく、頭まで布団を被ってしもた。いつまでも構ってられへんし、さっさと着替えを取って寝室を出る。リビングで着替えてると、「だあぁーっ!!クソッ!!!」って侑が叫ぶ声が聞こえてきた。ええ〜…機嫌悪っ……しゃあない。帰りお造り買うて帰ろ……。

(20200812)


High Five!