アランくんに会いたい

MSBYの今シーズンが開幕して最初の2週間は仙台にはじまり、遠方での試合が重なっとったから侑は週末の度に大阪を離れとった。侑がおらんくって自分も仕事が休みなら実家に帰りがてら治のとこに行って、夜ごはんを食べることがまーまーある。侑の代わりというとだいぶ失礼な話やけど、表情の雰囲気はだいぶちゃうとはいえ、素の顔は好みど真ん中やから拝みたい。とはいえ、治とはキスしたいとか疾しい感情は一切沸かへんから我ながらちょっと不思議ではある。そもそも治にも彼女がおるから、そういう気になれへんってのもあるけど。だいたいきみちゃんとうち大親友やし。
ご飯を食べ終えて淹れてもらったお茶を飲みつつ、今日ここに来た本題を切り出す。

「治くーん、お願いがあんねんけど」
「その猫なで声止めろや。気色悪ぅ」

こんな別嬪目の前にして気色悪いってなんやねん!
そう思っきし文句出そうになったところをぐっと飲み込んで上目遣いに見つめる。もともとただでさえでかいのに、立って作業する治と座ってご飯食べるうちとでは自然とそうなるけど、この場合は意図的にやっとる。片割れほどの効果は期待できへんけど治も「色目使ってくんなや!」って嫌そうに言うてきとるし、全く効果ゼロってわけでもなさそうやから、ついついあざとく顔を作ってまう。ほらうちかわいいし?自分でやっててあれやけど、おまえきみちゃんはどないしてん。

「で、お願いってなんやねん」
「あんなぁ、アランくんの連絡先教えてほしいねんけど…」
「ハァ?なんでアランくんの連絡先いるねん!……浮気か?」

確かにアランくんはカッコええけど、おまえ顔タイプちゃうやろ。
そう半目でこっちを見てくる。治の中でうちの評価が見て取れる。確かにアランくんも顔整ってるねんけど、治の察する通り宮兄弟のような綺麗系の顔が好き。ええ、ええ、わたくしめちゃくちゃ面食いです!!てかおまえって言うなや。

「浮気?ちゃうちゃう!むしろ逆って言うか…!」
「逆ってなんやねん!だいたいツムに聞いたらええやんか。なんで俺に言うてくんねん」
「そんなん侑に言うたら絶対怒るか拗ねるやん」
「分かっとって俺に聞いてくるあたりほんまええ性格しとるよな」
「ええ〜そんな褒めんでええよぉ〜」
「うっざ…」

シラけたとばかりに冷たい視線を送ってくる。こういう冷めた顔の作り方は侑とちゃうなと思う。侑がこういう顔を人に向けるときもっと感情が乗ってるけど治の場合は"無"ってかんじや。いったん淹れてもらったお茶で一息つく。

「こないだのファン感だだスベりやったやん?開幕してもしばらく引きずってて、まぁそれはそれでしおらしい言うか可愛かいらしかってんけど」
「おまえのそういうとこほんまキモいな」
「やかましいわ!つーかおまえ言うなやボケ!」

ハァ?と凄まれて反射的に口に出しそうになった暴言をグッと飲み込む。
小町、今日は治にお願いにきたんやろ?平常心、平常心、平常心…。

「ちゃうねん、ほんまお願い。ほら、メンバーよぉ考えて?ボケても突っ込んでも収集つけへんかんじ!ヤバない??」

MSBYのメンバーに混ざる想像をしてみる。侑の同年代といえば天然、天然、無関心──…となかなかの曲者揃いや。原因のひとつである光太郎に関してはうちは親族として生まれてきてからの長い付き合いで慣れとるけど、侑はイラチを発揮しそう。他の二人は正直そこまで知らんけど、侑からの話を聞いてる限りなかなか話通じへんそう。ほら100%ツムちゃん1人でドツボにハマるやつやん。何が言いたいかって言うと、アランくんがチームにおってほしい。

うちの力説に治はハア〜って大袈裟なため息をついた。

「別に俺から口利きしたってもええけど、自分でもツムに言うんやで」
「サムくんさすがやなあ〜」
「ほんま調子ええやっちゃな」

治はまたえらい冷めた目で見てきよる。

「だいたいアランくんに言うたかて、実際MSBYに来るんか決めるんアランくんやし、監督とかチームのフロントやん」
「それもそやな」

こうしてツムちゃんに内緒でアランくん移籍計画は呆気なく幕を閉じた。

(20210404)


High Five!