強かに生きる

大学を卒業するまでは家から練習場やクラブハウスに通っていたが、卒業式を終えるとすぐ寮に入った。クラブハウスに併設されているから練習前後の移動の煩わしさはない。食事はバランスの良いものを提供してくれ、食事面から体を作ろうとしている。部屋の掃除や洗濯は自分たちで行うが、そう手間ではない。3年前にプロリーグになったばかりのチームの環境は決していいとはいえないが、そう悲観するものではないと思う。

プロ入り二年めを迎えたが、未だに練習試合以外でトップチームに使われることは片手で足りる程度だった。サテライトリーグに参加していたから、試合勘が衰える心配はなかったのは不幸中の幸いか。しかし、サテライトでの試合は練習試合のような雰囲気があり、どこか真剣味にかける選手も見られるし、自分自身 最高のパフォーマンスができているか疑問が残る。
サテライトでもトップチームでも共通しているのは、速さを買われセカンドトップやウィングを担うことが多いことだ。ならば速さで引っ掻き回し、こぼれ球ひとつでさえも貪欲に拾いにいき、積極的にゴールを狙うだけだ。

そんな俺の息抜きはたまに実家に帰った時に愛実の話を聞くことだった。二年前、寮に入るから今までのように会えなくなることを告げると、捨て犬のような顔をするものだから、つい帰るときは連絡すると約束したのだ。
帰る日程が決まると愛実に連絡して、時間が合うようなら会って話をした。俺は専ら聞く側で、愛実は最近あったことから進路に関する相談までなんでも話した。一人っ子だから、友達以外に年の近い誰かに話す機会がないのだろう。親以外の年上の誰かのアドバイスがもらいたいのかもしれない。まだ子どもらしさの残る愛実の話にも存在にも癒やされるし、何度も助けられた。

(20131117)

*セカンドトップ…一番前のFWより少し後ろにいるFW。1.5列目、シャドーストライカーと呼ばれたりもする。
*ウィング…スリートップのフォーメーションをとるとき両サイドにいるFW。△の各頂点にFWがいるとして底辺の両端に位置する選手。


High Five!