すきだよ。

良則くんのことを改めて知ってからも何度か連絡があった。たった一度の約束を良則くんはちゃんと守ってくれているのだ。優しくて、すごく真っ直ぐな人だと思う。なのにわたしは用事があるとウソをついたり、会ってもよそよそしい態度で接してしまった。言い出したのはわたしなのに、最低だ。

今日も何度めかのお誘いを断った。断る度に罪悪感や会いたいのに会えない気持ちで胸の奥がぐしぐしと痛む。わたしって自分勝手でワガママだ。暗くなりかけた帰り道でうじうじ考えていると軽い足音が聞こえてきた。きっと誰かが走ってきているのだ。いつも走ってる良則くんみたいに。もしかしたらという期待とほんとに良則くんだったらという不安と混ぜこぜになったまま、思い切って後ろを振り返ったら、ほんとに良則くんだった。

「……良則くん、おかえり、なさい」
「おー、ただいま…ってどうした?!」

気持ちが高ぶって泣いてしまったわたしを良則くんはびっくりした顔で見た。そりゃそうだ。会っていきなり泣き出したら誰だってびっくりする。なのにすぐ目の前にやってきてそっと抱きしめて背中をなでてくれた。「ごめんな、なんも上手いこと言ってやれねーけど」って言ってくれたけどそんなことちっとも気にしないでいいのに。

進路のことで悩んでいたあのときと同じようにお話を聞いてくれるらしい。そのときと同じ公園のベンチに座ると、良則くんは買ったばかりのお茶のペットボトルのふうを切って手渡してくれた。一口飲む。少し落ち着いた。

「あのね、よし、のりっくん…あのねっ……」

落ち着いたと思って口を開いたのに上手く話せない。逆に涙がでてきた。「いいよ、無理に話さなくて」と良則くんが優しく頭をなでてくれる。その優しいところと、お別れを言わないといけないという切なさでまた涙がせり上がってきた。
今度こそ落ち着いた。そう思って改めてあのね、と口を開けばずいぶんと酷い声をしていた。

「良則くんと、もう会わない方がね、いいと思ったの」
「は?なんで」
「良則くん、だってプロの、サッカー選手なんでしょう…?」
「……プロって、んなの名前だけだよ」

そう言ってから良則くんはこくり、と喉を鳴らした。とっても悔しそうな顔をしている。

「いつどこで知ったのか知らねーけど、俺はプロって言ってもギリギリのラインに立ってんだ。愛実、こうやってさ、たまにお前の話を聞いて俺はいい気分転換になってんだ」

もう会わないとか言うなよ。

その良則くんの言葉が頭の中で繰り返される。わたし、会うの我慢しなくていいんだ…!良則くん、良則くん、すきだよ。
また泣き出してしまったら今度は軽く抱きしめてくれた。

(20131121)


High Five!