ビッグニュース

決死の覚悟でお別れを告げたあの日から(と言っても、結局お別れはしなくてすんだのだけど。)、良則くんと前以上に距離が縮まった気がする。
今まではわたしがくだらない内容のメールをして少し返してもらうことはあっても、良則くんからのメールはいつ帰るという業務連絡のようなものだけだった。
それが良則くんからもちょっとしたことをメールしてくれたり、今まで待ち合わせの時くらいしかしなかった電話をするようになったのだ。たとえば、昨日食べたご飯がおいしかったから今度連れてってやるよ、とか、今日の試合でシュートを決めた、なんて具合に。
そんな些細な一言で、わたしの気持ちはバカみたいに舞い上がる。きっと良則くんは前よりちょっとだけ、わたしに情が移っただけなのに。



気がつけば、毎日のように雨の続く梅雨になった。雨にはうんざりすることもあるけど、大学に入ってから目まぐるしく過ぎて行った毎日に、ほとんど慣れたからか毎日が楽しい。
そんなある日の夜、良則くんから電話がかかってきた。書きかけのレポートをほっぽり出して迷わずでた。「もしもし、良則くん?」わたしの問いかけに良則くんは、ああ、とだけ返した。そして少し間をおいて、びっくりすることを教えてくれた。

『愛実、俺移籍するんだ』
「移籍?移籍ってなに?どういうこと?」
『違うチームに行くんだ』

良則くんの声は興奮してるのを隠すようにしてるけど、どこか弾んだ響きがあった。

イーストトーキョーユナイテッドっていう東京のチームなんだ。ホームタウンは浅草とかのあたりだから家からはちょっと遠いな。
愛実、俺はそこでレギュラーをものにする。名前だけのプロじゃなくて、本当のプロになる。

今にみとけよ!!と良則くんは力強く締めくくった。良則くんは自分の好きなこと、やるべきことにも真っ直ぐだ。なんてかっこいいんだろう。わたしと全然ちがう。
黙り込んだままのわたしに良則くんは愛実?と声をかけた。なにか言わないと。バレないようにそっと息を吐き出す。

「良則くん!わたし応援してるね!!」
『ありがとな』

誰よりも一番、なんておこがましいかもしれないけど、わたしの気持ちは本物だよ。前は遠いとこだったから行けなかったけど、同じ東京なら試合だって観に行く。
このニュースは確かに嬉しいことのはずなのに、良則くんが今よりもっと遠くに行っちゃうみたいに思えて、胸がきゅっとした。

(20131124)


High Five!