移籍

愛実への想いは気のせいだ。気にしない。
そう思うように心がけても、上手くコントロールできないから、感情は難しい。兄としてなのか、異性としてなのかまでは計りかねるが、愛実は愛実で俺を好いてくれているのもまた厄介だ。
全く恋愛経験がないわけじゃないが、ここ何年かはサッカー本位に生きていたからさじ加減もわからない。いっそ愛実が同い年や、精々ひとつかふたつくらいしか変わらなければ俺はこうも悩むことはなかっただろうが、そんなものは現実逃避でしかない。情けないものだ。
しかし、こないだの一件から距離感は少なからず縮まっているのもまた事実だった。実家に帰る帰らないを問わずメールや電話をすることが増えたのだ。



愛実が俺がサッカー選手だと知って1、2ヶ月経った頃、ひとつの転機が訪れた。同じ二部リーグのチーム、ETUからの正式なオファーがあったのだ。梅雨入りして毎日のように雨が降る中で、日の光を見るように晴れやかだった。
話を聞いてみるとどうやら俺にとっていい知らせで間違いないようだった。以前にも声が掛かっていたらしいが、その時はトップチームでの起用をするつもりで、どうやらこちらにまで話が降りてきていなかったらしい。ところがトップチームでの活躍の場は限られ、再び声がかけられた。今度は俺の元にまで届けられた。以前とは違い、戦力外通告みたいなものだろう。
とはいえ、いつまでもサテライトでくすぶってなどいられない。サッカー選手としての寿命は決して長いとはいえないのだ。俺はすぐに契約を決めた。話はすぐにまとまり、夏を前に完全移籍した。



ETUは中心選手だった達海が移籍したあと二部に降格して二年経つチームだ。俺自身は対戦したことはないが、外から見たかんじだとチームが上手く機能していないのが見てとれた。達海の流出、補強の失敗、監督の采配──…様々な理由で二部に留まっているのだ。
チームに合流したら、まずは自分をしっかりアピールしてレギュラーをもぎとる。そして一部復帰を目指すのだ。

(20131123)


High Five!