今だけは、俺のものでいて

移籍してから4ヶ月経ち、スタメンに定まりつつある。ETUには足で引っかき回すタイプのFWはいないようで、重宝された。守りを固めてカウンターで攻める戦術にもうまくハマったのだろう。毎試合得点とはいかないが手応えとしては悪くない。当然、自らゴールするに越したことはないが。

愛実がはじめて試合を観に来てくれたとき、ずいぶんと喜んでくれた。メールと電話で興奮を抑えきれない様子でただ褒めてくれたのだ。それに調子に乗って、ホームゲームのとき愛実に予定がないと分かるとチケットを贈るようになった。愛実は必ずきてくれて、見つければ決まって目が合うし、見てくれてるのだと思う。
環境が変わってはじめて愛実に会ったときだって、愛実は自分のことをそっちのけで俺の試合のことばかり話してくれたぐらいだ。嬉しさを通り越して、照れてしまった。話に夢中で気づいていなさそうだったが。
すごいすごいと褒めてくれる愛実が来た試合は引き分けこそあったが、今のところ負けなしだ。そのこともあり、からかい混じりに「愛実は俺の勝利の女神さまかもな」と言えば、顔を真っ赤にして俯いた。頭をなでれば、益々縮こまる。愛実がかわいくて仕方ない。気づかないふりをしていたけれど、会う度に、声を聞く度に、想いは大きくなるばかりで、いよいよ重症だと思った。

どう考えても愛実から嫌われていない。でなければ、こうも頻繁に会うことはないだろう。むしろ好かれていると思う。それも都合よく勘違いできるレベルで。しかし、一歩先に進むのは躊躇われた。愛実はまだ大学一年めの未成年で、5歳差というのは今の俺たちにはかなり大きな差に思えた。

(20131201)

title by 魔女「だんだん好きになってくれたらいい」


High Five!