心のはずみ

シーズンの途中に移籍してきたETUは、最終節を迎える前に5位以下になることが決まってしまった。つまり、今季での昇格は無理だった。まだ残ってる消化試合をこなし、ファン感謝イベントを終えるとオフシーズンを迎えた。

ファン感謝イベントでは移籍してきて一年も経っていないということで簡単に自己紹介と一緒にいくつか質問を受けた。試合に出た数は決して少なくはないし、それなりに結果を残せただけあって、サポーターからの印象も悪くないようだった。
しかし、チームの状態はいいものとは言い切れなかった。今の監督と契約をしなかったのは決まっているが、まだ次の監督が決まっていないのだ。監督が変わるということはチームの方向性も少なからず変わる。単純に考えて、同じ監督で継続しているチームより、考え方の面でスタートが一歩遅れているようなものだ。まあ、サッカーはそんな単純なことで勝ち負けが決まるわけではないが、多少の影響はある。



移籍してからは寮ではなく、近くのアパートを借りて一人暮らしをはじめたが、オフの間はずっと実家にいることにした。ずっと心配をかけていたようだし、同じ東京なら急な召集があってもすぐクラブハウスに行けるからだ。
オフの間でも体を鍛えることは止めない。ストレッチで丁寧に筋肉をほぐし、少なくとも90分は走る。フル出場しても戦い抜けるように。今はまだ若いからいいがもう何年かすると、それも難しくなってくるのだろう。今まで接してきたベテラン選手を見てきて学んだことだ。

その合間で愛実と会った。愛実への想いを一度認めてしまえば、かえって気持ちが楽になった。年の差のことは引っかかるが、愛実も愛実で会うと嬉しそうであるので今は気にしないでおくことにした。まあ、自分に都合のいいように見えているのかもしれないが。ただ、ひとつ気になるのが愛実がまた何か思い悩んでいるようだった。

愛実は冬休みの時期らしく、バイトが毎日のようにあると言っていた。どこか残念そうに「クリスマスもね、バイトなんだよー」と言っていたから、がんばれという気持ちを込めて頭をなでてやれば嬉しそうに目を細めた。それも一瞬のことでやはり悩ましげな顔をした。だからふと思いついた。そのクリスマスにどこか連れ出してやろうと。もちろん、同意を得た上で。
クリスマス当日は朝から晩まで働いていると言っていた。営業終了を待ち、出てきた愛実ところで声をかけるとえらく驚いていた。

「お疲れ、愛実」
「よ、良則くんっ!!?」
「お前寒くねーの?」

愛実があまりにも寒そうで思わず顔をしかめた。自分のマフラーをとって巻いてやれば、顔を赤くして俯いてしまった。可愛いやつだ。

(20131206)


High Five!