甘い毒

愛実は「な、なんでいるのっ?」となんとか絞りだしたらしい。たどたどしく、声はかすれてしまっていた。心底驚いたのか、俺にとっていい意味でいっぱいいっぱいなのか、はたまたその両方か。表情や声、言葉、仕草のひとつをとっても愛しく思える。自然と笑みがこぼれた。目線を合わすように屈めば、戸惑いながらも目を合わせてくれる。「最近、また元気なさそうだったからな。どっか連れ出してやろうと思って」と最もらしく、理由をつげれば「えっ…?」と本当に驚いた顔をした。

「嫌なら真っ直ぐ家まで送ってやるよ」
「そんな!嫌なわけないよ!嬉しい!」
「そっか」

本当に嫌がるようなら真っ直ぐ送り届けるつもりだった。まだ未成年のはずだし、遅くまで連れ歩くわけにはいかない。そこは大人の責任だ。
風に吹かれて愛実の髪はぐしゃぐしゃだ。簡単に直すようになでると気持ちよさそうに頬がゆるんだ。無意識に親指で頬をなでる。鼻先がくっつきそうなほどに近い。……やっべ、普通にキスしそうになった。恋人でもない未成年に手ぇ出したらそれこそ犯罪だ。あぶねー。愛実もキスされそうになったのに気づいたのか、顔を赤くして、目線を下にそらされた。
そろそろ移動するか。駐車場に向かうために愛実の手と繋いでみれば、氷のように冷たかった。手を握り込んでもなかなか手の温度は上がらない。俺の手が冷たさにマヒしかける頃、慌てたように愛実は声をあげた。

「よ、よしのりくんっ!」
「なに」
「な、なにって…」
「嫌か?」
「ううん、嫌じゃない、けどっ…」
「じゃあいいだろ。お前の手冷たすぎ」

力なく握られたままの手を更にぎゅっと握れば、そっと握り返された。コートのポケットに一緒に入れておけば、すぐに温度も上がるだろう。なんだか照れくさいが。
行くぞ、と声をかけても反応はなかったが、しっかりと歩いてくれているし、気にしないでおく。

「もう8時回ってるし、そんな遠くまで行けねーけど、ドライブでもするか?」
「うん」

返事はあったものの、ちゃんと聞いているのかわからなかった。街灯に照らされる顔は相変わらず赤いままだった。

(20131210)


High Five!