Tak my hands

耳やつむじまで赤くした愛実が腕の中で身じろぎした。手を放せばそのままどこかに走り去ってしまいそうだ。ここが愛実の家の前だというのに。抱きしめていた手は緩めて、代わりに腕を掴む。俺よりずっと華奢だった。

「よ、良則くん今のっ…」
「聞いた聞いた。愛実俺のこと好きなんだって?」
「う、あの…聞かなかったことに…」
「するかよ」
「うぅ…」

愛実は唸って、唇を噛みしめた。それは涙を堪える子どものようで、案の定みるみるうちに目を涙でいっぱいにした。

「ごめんごめん。意地悪だったな」

俺もまだまだ子どもだな。

愛実の目からこぼれ落ちた涙を親指で拭う。拭っても次から次へとこぼれていく。全てを拭うのは早々に諦めて、代わりに濡れた頬をなでる。泣いてる顔から感情は読み取りにくいが、羞恥心から泣いてるのだろう。

「俺たち、つい今まで同じ事で悩んでたんだよ。馬鹿みたいだな」

再会したときは子どもの頃を懐かしく思った。気がつけばよく会い、話すようになっていた。それがいつからか愛しい、かけがえのない存在に変わっていった。だけど、俺には昔の思い出があり、年の差を思い、想いを伝えるのを躊躇した。
俺の言葉を理解できなかったのか、不思議そうにしている。ただ驚いて涙は止まったようだった。

「愛実、お前が俺を好きって言ってくれたみたいにさ、俺もお前が好きだよ」

愛実はぱくぱくと口を動かしたけど、声にはなっていなかった。言葉の代わりにぎゅっと抱きついてくる。それが愛しく思えて強く抱き返す。
愛実はやっと落ち着いたらしい。甘えた声で「良則くん、ずっと一緒にいてね」と言った。子どもの頃に同じ言葉を聞いた気がする。それが可愛らしくて、笑ってキスをした。「愛実が望むなら」と言葉を添えて。

(20131220)


High Five!