新しい監督

「今日から新しい監督さんになったんでしょう?どんな人だったの?」
「さあな。まだわかんねーよ」

ポジション毎に30mダッシュのタイムを測った。一本だけでなく何本も。その後達海監督の指名した若手中心のレギュラー候補と、昨シーズンまでのレギュラー陣でミニゲームを行った。結果は3-0で達海チームの勝ち。やり方が納得いかないのもあるが、それ以上に、1点も決めれなかった。簡単にかわされた。その事実が悔しい。

「良則くん」
「んだよ」
「ちゅーして」

愛実の不意打ちに「は?」と反射的に返してしまったが、怯むことなく、逆に愛実からキスされた。髪をすいてやると目を細める。
きっと、苛立ちが出ていたのを愛実なりに解そうとしてくれたのだろう。

「達海猛って知ってるか?」
「タツミタケシ…?待って、聞いたことある…誰だっけ?」
「元ETUの選手。うちの新しい監督だよ」

愛実はふーんと気のない返事をした。その後は上の空でタツミタケシとETUをぶつぶつ繰り返しているから、なにか思いだそうとしているのだろう。

「あっ思い出した!ねえ、代表にいたよね?」
「ああ。10年くらい前な」
「すごーい。わたしすごく好きだったんだ。選ばれたばかりなのに存在感があって、わくわくしたなー」
「そうかよ」
「うん!」

思い出してすっきりした上、昔の憧れの選手ということで興奮しているらしい。目を輝かせている。じっとそれを見ていると視線を寄越した愛実と目が合った。そしてふふっと声を立てて笑った。

「良則くん妬いてる?」
「妬いてねーよ」
「心配しなくても、良則くんが一番だいすきだよ」
「うっせーな」

正直ちょっと面白くないと思うが妬くほどのことでもない。わしわし頭を押さえつければ「いたいいたいっ」と抵抗された。

(20131119)


High Five!