カレーパーティー

駅の近くで会った椿くんと別れたあと、勇太と公園でいっぱい遊んだ。
家の外でうがいは難しいから、しっかりと手洗いをさせてクラブハウスに向かった。何度かこっそり練習を見にきたことはあったけれど、こうやって堂々とクラブハウスに来たのははじめてだ。
さっき椿くんとやりとりしたかんじだと急に計画されたものみたい。だけど多くの人で賑わっている。サポーターの人もたくさんいるみたいだし、わたしたち親子みたいに偶然知ってきた地元の人も多そうだ。
良則くんを通して実際に会ったことある人も、そうじゃない人やフロントスタッフさんも、みんなカレーパーティーの手伝いだったり、ファンサービスをしている。ETUってやっぱり地元を大事にするあったかいチームみたい。良則くんはETUに、この地元の人たちに育ててもらったからって思ってるから、ファンの人たちみんなを大事にしてるの知ってたけど、他の選手にも共通してるって思うとうれしい。
素敵だなーって思ってたら突然勇太の手が放れた。慌てて足元に目を向けるとビューって良則くん目掛けて走っていった。人の間を器用に走っていくから、ぶつかりそうになった人たちに頭を下げつつ追いかけた。

「パパーっ!!」
「あ!こら走っちゃダメー」

良則くんは走って飛びついた勇太を易々と抱き止めた。むー、ちょっと羨ましいぞ。我が息子よ。さすがに26で子持ちだと外でベタベタするのは抵抗がある。良則くんも恥ずかしいだろうし。

「あ、来たのか」
「良則くんたらヒドい!メールのひとつでもくれたらいいのに」
「おっす、愛実ちゃんお久しぶりー」

勇太を抱え直した良則くんに詰め寄ると横から丹波さんに声をかけられた。挨拶しないといけないとは思うけど、今はそれどころじゃない。
良則くんに抱っこしてもらって満足したのか、勇太は下りたがる仕草をしている。良則くんはするっと足元に下ろした。

「悪かったよ。拗ねるな、愛実」
「拗ねてないけど、」
「んだよ、その不満そうな顔」
「だって駅前でチラシ配ってるの見なかったらこれなかったんだもん」

たまたま椿くんに会えたからよかったものの、後から知ってたらわたしほんとに拗ねてたと思う。
きっと準備とかで忙しかったんだろうけど、良則くんは何にも言い訳しなかった。だからってわたしの機嫌をとる素振りもしない。いや、別に拗ねてないけど…!良則くんは普段通りに「カレーよそってやろうか」とだけ言った。うん、って頷けばほんの短い間、わたしの頭におっきな手を置いた。

「あれ?えー、ふたりして無視ー?」
「たんばー!おれとあそぼー!!」
「お前だけだよ、勇太!俺に構ってくれんのは〜」

ごめんなさい、丹波さん。すっかり忘れてました。

(20131120)


High Five!