チビの愛実

女子高生から背を向けた直後、スーツの裾が引っ張られた。犯人は言わずもがな、この女子高生だ。

「えっと、なに?」
「あ、ごめんなさい。つい…」

無意識だったらしく、すぐに手は離れた。気まずそうな顔をしている。怒られるとでも思ったのか恐々と「知ってる人だと思って」と告げられた。どうやら見たことあると思ったのは俺だけじゃなかったらしい。
改めて見てみると、やっぱり見覚えのある顔だった。だけど、高校生の知り合いはサッカー部の後輩くらいしかいない。女子マネージャーは今いなかったはずだ。そのまま見ていると、女子高生は怒られるのを我慢するようなをした。うかがうように、不安そうな顔をしている。ん、この顔…

「あっ、おまえ チビの愛実か!」
「わたしもうチビじゃっ…あっ!!ヨシノリく んだっ」

お互いに誰かわかると、愛実はパッと嬉しそうな顔をした。人懐っこそうに無邪気に笑うのは子どもの頃と変わらなかった。
愛実は俺が六年のときに入学した一年生だ。同じ地区の中でもすぐ近くに住んでいたから、最初の一ヶ月は毎日手を繋いで登校していたのだ。そのこともあって、地区別で帰るときはもちろん、縦割りオリエンテーリングのときもべったりだったのを覚えている。
俺が卒業したときはびっくりするくらい泣いていたし、中学に上がったあとも道端で会えばじゃれついてきた。それが年々会う機会は減っていき、愛実と最後に会ったときもランドセルを背負ってた気がする。なのにいがいと覚えてるもんなんだな。

「でかくなったな」
「でしょう?」

愛実は得意そうに笑った。

(20131112)


High Five!