自分に言い訳

道端でしばらく泣き続けた愛実が落ち着くと、近所の公園まで連れて行った。昔みたい手を繋ぐと、相変わらず自分よりもずっと小さなものだった。今でこそ平均身長くらいありそうだが、昔の愛実は同じ一年生の中でも小さかったのだ。

空いているベンチに並んで座ると、しばらく黙り込んでいた。やがて、ぽつぽつと話し出した。考えつつ話しているらしく、時々話は行ったり来たりしたが、わからないほどぐちゃぐちゃではない。全部言い終えたのか、はあーっと一息ついた。どうやら進路を選ぶ上で、誰しもがぶつかるであろう壁にぶち当たっているらしい。
愛実あのな、と切り出せば本当に困っているらしく、悩ましげな顔と目が合った。

「今はまだ時間があるんだ。いっぱい悩めばいい。こう今は無数の選択肢があるけど、どれを選べば最善かなんて誰にもわからないし、同じことでも最善と思う人もいれば、最悪と思う人もいる。
大学にしろ、就職にしろそれが全てじゃないんだ。やり直しはいくらでもきく。たとえば、進学した先を辞めて違う学部に行ったり、就職したけど仕事を辞めて学校に行ったりな。周り道した分、お金や時間が人よりかかるかもしれない。でも、最終的 によかったと思えばお前にとっての最善だろうし、悪く思ってもその先に続く経験であり、財産になる」

特別サッカーの才能があるわけじゃなかった。スピードをいかした動きが、契約したチームの戦術にはまっただけ。練習こそトップチームとしたことはあるが、試合に帯同することは極まれで、ぬるま湯に浸かっているようなサテライトでがむしゃらにやりながら、トップチームでの活躍に夢見るばかりだ。プロサッカー選手と言ったって誰もが知るスタープレイヤーはほんの一握りなのだ。
せっかく公務員での内定をもらっていたのに、不安定な職を選んだなんて、結果を出せなければ親不孝にしかならない。

愛実に言った言葉はそんな自分への言い訳を兼ねていたからまじまじと見られていることに苦笑いした。全部鵜呑みにされても責任はとりきれない。

「全部真に受けないで話半分にしとけよ」
「ううん、ありがとう。ヨシノリくん。あのね、またお話聞いてくれる…?」
「いいよ。話ぐらい」

子どもの頃のようにもう泣くなよ、と頭をなでてやると嬉しそうにしてくれた。

「泣いて喉渇いただろ。なんか飲むか?奢ってやるよ」
「うん」

この日を境に、愛実とよく会うようになった。

(20131116)


High Five!