あくまで男の子

春先に染めた研磨の髪は時間と共にプリン状態になっていった。反対に真生の髪はこまめに染め直されているだけあって、根本から毛先までキレイな金髪が保たれている。ここまでぶっ飛んだ色が似合う日本人もいるもんだ、とたまに思う。

「なあにー?じーっと見てー」
「こうやって見るとお前ほんとギャルだな」
「こんなの全然ギャルじゃないー!」
「キンキンに染めてなに言ってんだよ」

髪に手を伸ばして、一房すくうと真生は嫌そうな顔で身じろぎした。どうやら機嫌を損ねたらしい。こういう顔を見ると研磨とよく似ていると思う。
真生は髪を染めるのとほぼ同時期に化粧もするようになった。校則が緩くて"華美でない"化粧は許されているから、化粧をする子も少なくない。同様の理由で髪の脱色も多い。真生ぐらい明るい金髪は見ないし、逆に真生以上に濃い化粧が見られたりする。

「化粧まで覚えちまってさ」
「だって、スッピンだったら出来損ないの西洋人形みたいなんだもん」
「あー」
「ほらー!」

もともと目がでかいとはいえ、顔が西洋人とはまた違う日本人のおぼこさに、ぶっとんだ金髪だから、ひどくアンバランスで"出来損ないの"西洋人形に見えなくもない。それが化粧をすれば西洋人形に少しは近づくのだから女の化粧はすごいと思う。頬も唇も淡いピンクで、幼く見えるけど、まあ似合ってるし、本人が満足してるならいいんだろう。目は化粧する同級生に多いバサバサするまつげとか、縁に黒いラインもないから余計幼く見えるんだろうか。

「でも目はそんなにだよな」
「だって濃くしたらケバくなるじゃん。真生はキュートでカワイイお人形を目指してるのー!」

自慢げな真生を見ると、言わんとすることがわからないでもない。普段は制服やジャージを見ることが圧倒的に多いからあんま考えたことないけど、今日みたいにワンピースを着ていると確かに人形っぽい。昔の西洋人形っていうよりリカちゃん人形に近いけど。

「もー、てっちゃん顔近いー」

うんと顔を近づけて目元を覗き込んでたせいか、真生は煩わしそうにオレを押し返した。ちょっとしかめた顔はやっぱり研磨に似ている。そういうことされるとかえって妙な加虐心がわいてくるんだよなぁ。普段は目に入れても痛くないってほどかわいがってんのに。

「な、なに?てっちゃん怒った?真生が押したから、」
「いーや、怒ってないよ」

今のオレはよっぽど悪い顔をしてるんだろう。真生はびびって体を仰け反らせて、怖いものを我慢するように目をつむって俯いている。

「ぎゃあ!」

無理やり顔をあげさせて、唇をなめると突き飛ばすようにされた。力が強くないから、実際に突き飛ばされることはなかったが。

「んだよ、『ぎゃあ!』って」
「だって!なめるから…!びっくりしたぁ……」

口の中がなんとなく苦いような、味わったことのない妙な味がする。口紅ってしてるのはあんなにうまそうに見えるのに、実際はうまくないんだなぁと思った。ぐったりと脱力した真生に今度は普通にキスをした。

(20150308)
(20151018)


High Five!