じこあんじ

一応、真生とは所謂男女のつき合いをしている。成り行きで始まったようなものだから、よくもまあ続いていると思うのが正直なところだ。別に嫌いとかではなくて、つき合うよりも前からオレも真生もお互いが好きに違いなかったけど、家族のような好きでしかなかった。それはつき合ったあとも変わらなかった。少なくともオレは、だけど。ふざけ半分にキスをしたりするようになったけど、子どものままごとの延長戦状のようなふわふわとしたものだった。

「てっちゃん!もう、聞いてたー?」
「悪い。なんて?」
「ほら、あそこ行こ!日本食のとこ」

そうだ。真生が見たがっていた映画をふたりでみて、食べて帰ろうって言っていたのだった。こうやってふたりきりで出かけるのもずいぶん久しぶりだ。だいたい昔からの習慣で研磨も一緒なのに。研磨が気を利かしたのか、単に面倒だったかはわからないが。

「どこ?」
「ほら、駅の4階のー」
「んなのあったっけ?」
「あるよー!てっちゃんと行かなかったっけ?研磨かなー?」
「研磨じゃね?」
「そうかも」
「じゃあ連れてってよ」
「うんー!任してー!」

真生は得意気にオレの手を引っ張っていく。日本食ならサンマ食えるかな。

「前そこで何食ったんだ?」
「んとねー、塩ジャケ!塩サバもおいしかったー!他にもねー、ハンバーグとかもあったよ」
「ほー」
「ごはんとお味噌汁もおいしいの」
「で?」
「で?…あっここー!」

サンマの塩焼きがあるかを確認するまでもなく、店先についた。食品サンプルは和食が中心で、手の込んだものではなくて焼き魚や肉じゃがのような家庭料理っぽいものが並んでいた。

「てっちゃん!サンマあるよ!よかったね!!」
「おし、一緒に食うか」
「やだー。まおさん肉じゃがの気分ー」

席へ案内されて注文を済ますと、真生は映画の感想をペラペラ喋りだした。一人で放っておいても延々喋り続けられるやつだ。
オレたち惰性でつき合ってるようなもんだが、きっと今はこれでいいのだ。変に背伸びしない自然体で、なんでもない日常が幸せなのだ。

「てっちゃん何ニヤニヤしてるの?」
「いやあー、真生チャンはカワイイなぁって思って」
「そんなの言われなくても知ってるー!」

自信満々に言い切っていながらも、頬は少し赤い。そういうところは素直に可愛いと思う。案外そういうところで絆されてるのかもしれない。

(20150716)

ORAS TM#77


High Five!