スーパーマン

あっちゃんとゆみちゃんにバイバイして地下街を通って駅まで歩く。遊びにいってくるね。そう言って出かけたのはお昼過ぎくらいだったのに、今は夜の9じちょっと前。すっかり暗くなっちゃった。暗いけど、10じには帰ってきなさいね、っていうのがうちのルールだ。だからまだ大丈夫。
いつもは研磨かてっちゃんか二人と一緒だけど、今日はあたしの友だちと遊んだから、今から家に帰るまでひとりぼっち。ひとりが嫌で、自然と早足になる。両耳にイヤホンをさして気持ちを紛らそうとしてたら、男の人に声をかけられた。

「あの、この辺よく通りますよね?」
「えっと…」

つられて足が止まる。誰だろ。あたしの知り合い?背は夜久さんくらいなのに、顔は逆にちょっとこわめだ。いや、こんな人知らない。

「前から気になってたんすよね」

あの、あれだ。これがナンパってやつなんだろう。今まで縁がなかったから、どうしていいかわからない。いや、断るの一択なんだけど、なんて言って帰ればいいの。人違いです?…は、なんか違う。

「良かったらつき合ってくれませんか?」
「ええっ!?」

この人おかしい!なんかヘン!!なんでそんな発想になるの!急に話がとんだ!

「あの、あたし帰らないと…」

一歩後ろに下がって、そのまま勢いで駅の改札に向かう。ちがう、向かおうとしたら腕を掴まれた。こわい。周りを歩く人はみんなあたしたちのことなんて知らんぷりだ。道の端の方だし、きっと気づいてないんだ。あたしも普段はそうだもの。放して!そう叫びたいのにうまく声がだせない。

「今からちょっとだけでも、ね?」
「っ…」

掴まれた腕が痛い。あたし、このままどこかに連れてかれちゃうのかな…。怖くて、不安で、心臓がどくどくする。手は冷たくなって、冷や汗が背中に伝うのがわかった。手を振り払うこともできなくて、頭の中が真っ白になって、もうどうしようもなくて、泣きそうになった。その時、横からパッと違う手が伸びてきた。

「手、放してくれます?こいつオレのなんで」

あたしの腕を掴む男の人の手首を、ほかでもない、てっちゃんが強く握っていた。それこそ指が白くなるくらいに強く。知らない人は舌打ちをして、てっちゃんの手を振り払うようにしてどっかに行った。何か言ってたけど、聞き取れなかった。自然とあたしの腕も放された。乱暴なやり方でたたらを踏んだけど、てっちゃんが支えてくれたからなんともなかった。宙ぶらりんになった腕をさまよわせて、てっちゃんの手をやっとで掴むと、手を頼りにぎゅっと抱きついた。

「……てっちゃんっ」
「怖かったな。いいよ、我慢しなくて」

てっちゃんもぎゅっとあたしを抱きしめてくれた。ぐずぐずと泣くあたしが泣き止むまで、てっちゃんはずっと頭を抱えるようにして抱きしめてくれた。てっちゃんはいつでも助けてくれる。まおのスーパーマンだね。

(20150306)


High Five!