5


さっき倒した敵が、電波妨害“個性”持ちかと思ったけれど、違ったようだ。携帯は圏外のまま、制御室にあった無線を手に取り連絡を試みるも、どこにも繋がらない。ひとまずパソコンを立ち上げて“個性”でパスコード画面をすり抜ける。これが出来ると知ったときの公安委員会の人間の顔は今でも忘れられない。悪用するな、と会長にも警察庁長官にも言われたのだ。人をなんだと思っているのやら。

「警報装置を作動……サイレンはやっぱり鳴らないか。電子掲示板の編集は……」

ぶつぶつと言いながら指をパソコンの画面に押し当てて操作する。度々出てくるパスコード画面は全部“個性”で強制的にスキップさせ、掲示板を管理している画面にたどり着く。

既に書かれていた案内表記を全て消去し、キーボードで打ち込んでいく。「USJ施設に敵の襲撃、ヒーローと生徒が交戦中。警察と高校へ連絡を」編集を終え、壁に取り付けられた監視カメラへと視線を向けた。そこには敵と戦っている生徒の姿が。順番に確認していって、水難ゾーンに出久の姿を見つけてほっと息を吐いた。―――良かった、無事だ。

無線をポケットに突っ込み、ひしゃげた扉の上で伸びている敵を引きずりながら制御室を出る。電波妨害をしている奴を見つけて個性を止めさせないと、外部への直接の連絡は出来ない。こいつが知ってるとは限らないけど。






“個性”を使って空気中の水分を取り出す。眠っている敵の顔の上で、水がみるみる膨れ上がっていく。“個性”を解除すると重力に従って落ちていき、顔面で弾けた。

「ッ!」
「おはよう」

目を覚ました敵は後ろ手に縛られた状態で、もぞもぞと動いている。(眠っている間に樹木で手枷を作っておいた)

「聞きたいことがあって」
「……答える訳ねェだろ」
「―――これからあんたを抱えながら、天井すれすれのたかーい場所を飛んで、入口を目指す。他の敵に邪魔されたくないから」

敵は不可解そうにこちらを見上げている。公安の師匠に教わったことを思い出しながら、続けた。

「どうせ暴れるでしょ? そしたら手が滑って離しちゃうかもしれない。私……ゼファーに比べると“個性”の扱いが下手なの」
「……」
「ここにいるクラスメイトも先生も、誰ひとり、死なせたくない」



「お友達が受け止めてくれるといいね」






▲ ▽


黒いもやに包まれたと思ったら、俺はあたり一面が燃え盛っている場所に居た。多分、USJ施設内の火災ゾーン。周りを見ると、俺を囲っている敵の姿が確認できる。――――みんなもきっと、一人で戦ってるんだ。俺もヒーロー志望、なんとしてでも切り抜けてやる。そう決意し、近寄ってきた敵を火の方向へ吹き飛ばして戦っていた。時間が経った頃、大きな物音が背後からした。

驚いて振り向いた俺が見たのは、火災ゾーンの壁をブチ抜いた実操の姿だった。

「実操!?」
「―――尾白か、無事?」
「ああ、そっちも怪我は無さそうで良かった」

実操は「どうも」と言って入口付近のパネルに手を翳した。数秒後、スプリンクラーが作動して部屋中に水が噴射される。火災の規模の設定のせいか、天井だけじゃなく壁や床からも水が出ている。ここに居た敵は火に強い“個性”持ちだったのか、炎が消えていくことにうろたえていた。そして中に居た俺はびしょ濡れになった。

「制御室へは行けたのか?」
「掲示板に襲撃のことを書いた。警報装置もオンにしたけど、電波妨害されてるから音が出ないの。妨害してる“個性”持ちをなんとかしないと」
「手当たり次第か……俺も手伝うよ」
「あー、ありがとう。でも大丈夫、ここにいるって吐かせたから」
「吐か、……え?」

にっこり笑った実操はすたすたと施設の中を突き進んでいく。火が消えておろおろしていた敵も、丸腰で歩いてきた実操を見て下卑た笑みを浮かべて襲いかかっていった。

「実操!!」

真っ先に攻撃をしかけた敵の巨体が空中に浮く。実操が敵に向かって掌を見せるように腕を伸ばしていた。これ、あれだ……ゼファーの救助動画で見たことある。サイコキネシス。

「リラックスリラックス」

いつものように落ち着いた声で実操は言うと、真っ直ぐに伸ばしていた腕を斜め後ろへと振り下ろした。それと同時に浮いていた敵が床へとめり込む。実操が腕を振り上げると連動するように敵が浮き上がって建物の壁に叩きつけられた。い……痛そう……。

「尾白こっち来て」
「う、うん」

俺がおそるおそる実操の後ろに立つ。他の敵も呆気に取られていたけれど、叫び声をあげ一斉に襲いかかった。

構えた俺をよそに、実操が再び腕を振り下ろす。既に気絶しているであろう敵が、まるでスーパーボールのように視界の中で飛び跳ねていく。仲間の敵にも当たって……一言で言えば地獄絵図だ……。実操の傍は安全なようで、俺は微かに震えながら終わりを待っていた。