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「さァ上げてけ鬨の声!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙を上げる!!!」

大音量のアナウンスに顔を歪めつつ、耳を塞ぐことはできない。右手は常闇の右手と指を組むように握られており、左手は彼の右肩に乗せられているからだ。

「麗日さん!」
「っはい!」
「常闇くん!」
「ああ……」

頭上から名前を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げる。

「卯依ちゃん!」
「うん」

斜め後ろから見上げる出久の背は、頼もしさすら感じられる。

「よろしく!」

気合の入ったその言葉に、お茶子が「おーう!」と叫んだ。常闇は無言。かなりの温度差である。


▲ ▽

「えっ!? 騎手はやらない!?」
「うん。騎馬がいい」

無事にメンバーが決まり、作戦会議の為にフィールドの端に移動するやいなや出た卯依ちゃんの言葉に、思わず大声を出してしまう。驚いている僕ら三人に、卯依ちゃんは構わず「左右のどっちかがベスト」と言った。

「機動力を誰かに任せていいなら私が騎手の方が良かっただろうけど、このメンバーならお茶子が皆を浮かせて、私が“個性”で動かすんだよね。そうなると、皆のことを視界に収めていないと」
「視界に?」
「うん。質量ないだけでハードル下がるけど、人を動かしたりするの、結構大変なんだよ」
「そうなんだ……」
「力加減間違えてみんなの体を押し潰したりしたくないし」

卯依ちゃんがぼそっと言った言葉に、自分の顔が青ざめるのが分かった。麗日さんも同じようにゾッとしているし、常闇くんは若干卯依ちゃんから距離を取っている。

「もしかして、前やってくれたときも……?」
「あの時は二人だけで、ただ飛んでいただけだから。攻撃を避けて、緩急つけてってなると難しいね」

なるほど、と顎に手を当てて考える。卯依ちゃんの“個性”、サイコキネシスは物体を心のままに操作するというよりも、見えない手で物体を動かしている、という感覚なのか。知らなかった。

「攻撃とか防御で“個性”使うときはその都度手を離しちゃうけど」
「ううん、それぐらいなら問題ないよ。でも、防御はしなくていいんだ。それは常闇くんにお願いするから」
「なんで?」

卯依ちゃんが不思議そうに首を傾げる。ほかの二人も不思議そうに僕を見ている。卯依ちゃんの手を見て言い淀む僕に、卯依ちゃんは「ああ」と思い出したように視線を落とし、自分の手を見下ろした。

「生徒の中にオールマイト並のパワー持ちが居るわけないし、大丈夫だよ」
「……」
「それでも?」
「―――うん」

卯依ちゃんはじっと僕を見てから、細く長い息を吐いてから「分かった」と頷いた。

「常闇に任せられる攻撃は、任せる。それでいい?」
「ありがとう」
「……出久がお礼言うことじゃないのに」

変なの、と呟くように言ってから、卯依ちゃんは常闇くんの周りに居る黒影を構い始める。麗日さんと常闇くんは終始首を傾げていたが、僕が作戦を話し始めると真剣な表情に変わった。自分の考えを口にしながら、頭に浮かんでいたのは別のことだった。

USJで見た、あの光景。
敵の攻撃を受けて繰り出されたバリア。
その後“個性”が使用できなくなっていた卯依ちゃん。
焼け爛れたような彼女の手のひら。

卯依ちゃんの“個性”の詳細を、僕は知らない。なにか重大な弱点があるはずだ。それを、彼女は言いたがらないけれど。

「(あんな怪我、もう負って欲しくない……)」

“個性”の秘密。抱えている悩みや不安を、いつか、彼女の口から聞けたら良いな。黒影をつっついて揶揄う卯依ちゃんの横顔を見ながら、頼ってもらえるようにもっと強くならないと、と決意するのだった。